映画「さよなら渓谷」原作小説の感想ネタバレあり「二人は幸せになれないのか」

映画が公開されて2年が経ちますが、
気になった作品なので小説を読んでみました。
映画は見ていません(笑)

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「さよなら渓谷」あらすじ

都会から離れた自然豊かな渓谷で幼児殺人事件が起き、容疑者として母親が逮捕された。
その事件をきっかけに母親が住む市営住宅の周りは連日マスコミで溢れかえり、
近隣住人に聞きまわる姿が見られる中、1人の記者が容疑者宅の隣人に興味を持ち、
調査を進めていくと、どうやら数年前の強姦事件に関わりのある人物ではないかと疑い始める。
そして一緒に住む妻は一体何ものなのか、この夫婦は一体どんな過去を持つ二人なのか、
1人のしがない記者が深い傷を追った夫婦の過去に迫るストーリー展開となっています。

感想

最初に発生した幼児殺人事件がいつのまにか薄くなっていき、
気がついたら容疑者宅の隣に住む夫婦を中心に物語が進むようになる。

これはよく映画で使われるテクニックだそうですが、
作者が部類の映画好きで、映像にしたらとにかく面白い!そんな構成になっているのもうなずけます。

更に現代と過去を行き来するという設定も、映画のような構成で、
強姦事件の加害者と被害者の記憶を順に辿るシーンはまさにそれに当てはまるでしょう。

15年前に起こった悲惨な事件が読み進めていくとゆっくりと紐解かれていき、
加害者と被害者が一緒に暮らしているという真実が見えていきます。

ただ、内容はそう簡単じゃないのがこの物語。
男女の深層心理を上手く表現された作者の心理を読み取るのは容易ではありませんが、
15年前に被害を受けた女性が今もなお苦しみ続けている現状を、
加害者側はどう受け止めているのか、
そして苦しんでいるのは被害者だけなのか、
確かに加害者が苦しむのは自業自得ですが、
今作では特に被害者女性が悲惨とも言える人生を歩んでいるという設定に注目したい。

学生時代に恋をして、社会人になって社内恋愛までは良かったのですが
過去の事件がバレて相手側の男性は引いてしまい破局、会社にも居づらくなり退社。
今度は別の会社に就職し取引先の男性と目出度く結婚するもDVにあい、
入退院を繰り返し、最終的には失踪してしまいます。

加害者側じゃないのにここまでヒドい人生ってあるのでしょうか?

そんな状況を知った加害者男性は病院に通い詰めて彼女にただひたすら謝罪しに訪れ、
彼女はDVを受けた夫の元へ帰ることはせず、二人は死に場所を探すような当てのない旅に出ることに。

「どうしても貴方が許せない。私が死んで貴方が幸せになるなら私は死ねない、貴方が死んで貴方の苦しみがなくなるのなら私は決して貴方を死なせはしない。だから私は死にもしないし、貴方の前から消えない。だって、私がいなくなれば貴方を許したことになるから。」(引用元:「さよなら渓谷」)

そんな重い言葉をぶつけられた加害者男性と被害者女性の奇妙な同棲生活が始まったのです。
二人は決して幸せになるための同棲ではなく、上記の彼女の言葉のように決して彼を許さないために一緒に暮らしているということ。

でも、果たしてそうなのでしょうか?
二人の生活は決して裕福ではないけど、平凡の中に安らぎがあり、
支えあって生きている夫婦の姿がそこにはありました。

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被害者女性は、これまでに過去の出来事が知られてしまう恐怖と戦っていましたが、
そんなビクビクしながら生きていくならいっそうのこと自分の過去を知っている男性と暮らしたほうが・・・・、
そんなことも考えてしまいますが、確かに彼女は加害者男性が憎いかもしれませんが
本の描写を読み取る限りでは普通に夫婦生活を営んでいたのではないかと思います。

ただ、心の奥底で彼を許していない部分があったのでしょう。
隣人の母子と仲良く遊んでる彼の姿に嫉妬して警察に嘘の証言をしてしまい、
彼は警察の留置場に数日拘束されることがありましたが
程なくして彼女は撤回、彼は開放されることになりましたが、やはり一言では語れない奥底に今も眠り続ける憎しみが
残っているのだと思います。

彼を許せない自分がいるのか、
許してはいけないという思いがあるのか・・・・。

結末はどうなるのか

「さよなら渓谷」の最後は予想外といえば予想外でした。
このまま徐々に憎しみの感情は薄らいでき、二人は普通の夫婦として、
ゆっくりとではありますが、歩んでいくのかと思いましたが、
被害者女性は、置き手紙を残して家を出て行ってしまったのです。

でも彼女の言葉を思い出してみてください。

「私がいなくなれば貴方を許したことになるから。」

自分と一緒にいることが彼にとっての苦しみや償いなら私が離れればいいだけ。
彼女はそれを実行したのです。

彼を許したのでしょうね。
でも納得がいかないのは加害者男性。渓谷に流れる川のせせらぎを聞きながら、
記者に誓った言葉は

「彼女を必ず見つけ出す」

という力強い言葉でした。

彼ならきっと見つけ出す事ができるでしょう。

映画の予告で賛否両論、ネタバレ有りはいいのか?

映画の予告では加害者男性と被害者女性が同棲していると容易に判断できる告知で、
原作を読んだことある方の「ネタバレになってませんか?」という質問が話題になりました。

確かに小説では肝になる部分ですが、

なぜ二人が一緒に暮らしているのか?

という大切な部分は伏せてあります。
映画製作側のコメントとしては、

「そりゃ本当は作り手としてネタバレはイヤですよ。でも、映画の情報に積極的に触れていない観客にとっては『さよなら渓谷』と言われても何の映画かわから ない。何の映画がわからないとお客さんは観に来ないんですよ。ネタバレはイヤだけど、お客さんが入らないのはもっとイヤですからね」(引用元:シネマトゥデイ)

確かにどんな映画なのか知ってもらわないと見に来てくらないのは一理あるかもしれませんね。
大人の事情と監督がこの映画で何を訴えているのか理解すれば、ネタバレしてもいい部分かと思います。