映画「グラスホッパー」原作のあらすじと感想

生田斗真主演で11月7日に公開されることになった今作。
ダークでハードボイルドで、普通の生活とはかけ離れた世界がソコにある。
一般人である主人公が自ら入りこんだアンダーグラウンドな世界、
彼は抜け出すことが出来るのだろうか?

伊坂幸太郎氏の代表作で、直木賞にもノミネートされた作品。
それではあらすじからご紹介していきたいと思います

Sponsored Link

もくじ (文字クリックでジャンプ出来ます)

あらすじ

グラスホッパーは3人の登場人物の視点でそれぞれ描かれており
交互に主人公が変わっていくストーリー展開。

1人は「鈴木」という人物、
ある組織の息子が運転する車に妻が轢き殺され、
復讐のために組織に入り、チャンスを伺っていた。

しかしその息子が交差点で「押し屋」と呼ばれる殺し屋に背中を押され
車と接触、死亡してしまったのだ。

事故現場からただ一人、離れていく怪しい男の後を追って、自宅まで尾行した鈴木。
しかし男が犯人だと確証がないため組織に報告するか迷っていたが・・・

 

二人目は鯨(くじら)、
身長が190センチ以上あり、ガタイが大きいことから鯨と呼ばれる。
彼の仕事は「自殺」を強要する殺し屋、依頼は政治家絡みが多い。
全身黒ずくめで胸ポケットにはくたびれた「罪と罰」の文庫本が入っている。

これまで32人を自殺に追い込み、33人目を片付けている時、
”押し屋”が組織の息子を殺す場面をビルの窓から目撃する。

彼はこれまで自殺に追い込んだ人間の亡霊?幻覚が現れる症状に悩まされていた。
その苦しみは押し屋と関係あるようだが・・・。

 

3人目は蝉(せみ)、
うるさく喋るからからその名が付けられているが
実は殺し屋でナイフ使いの名手。

組織の息子を殺したという「押し屋」の情報は彼の耳にも入り
そいつを殺せば名が上がると彼も探し始める。

こうして3人がある目標に向かって徐々に接近していく様子と
この物語のキーキャラクターである「押し屋」という人物が紐解かれていく。
鈴木が、押し屋と思われる男を自宅まで尾行し接触を試みたが
男は「俺は関係ない」という素振りをしていたので、
息子を殺した犯人は別人なのか?という疑念を抱かずにいられない。

そうした終盤まで展開が読めない辺りがこの作品の良さであり、
一般人という鈴木をダークな世界に引きずり込ませることで
我々読者もまた主人公になった気分になれるのだ。

 

「グラスホッパー」の意味は?

押し屋の槿(むくげではなく、ひまわりと呼ぶ)と鈴木との会話で
出てきたのがトノサマバッタの群集相の例え話。

群れをなして行動すると体の色は変化し、遠くへ飛べるようになり、時には凶暴になる。
そんな状況に合わせてバッタも変化するが、
それは人間にも当てはまるのではないかと槿がいう。

人口密度が高い都会で暮らしているとなおのこと凶暴になるだろう・・
そんな彼の言葉を聞いた鈴木は、なぜ彼が殺し屋になったのか、
何となく感じ取ったのかなと思います。

 

「グラスホッパー」の感想

ネタバレを言ってしまうと、上記の3人の中で最後まで生き残るのは鈴木。
ということは3人が順繰りに主人公として描かれますが
この物語の真の主人公はやはり鈴木と言っても良いでしょう。

麻薬・殺人などかなりダークな世界に唯一マトモで
どちらかと言うと、お人好しな性格の鈴木は場違いと言っても良い。

しかしそんなアンダーグラウンドな世界に生きる男たち以上に
殺意を抱いていた事は間違いない。

やりたい放題やってきた組織の息子に鉄槌を下すのは自分だ!
そう自分に言い聞かせて、殺すタイミングを図っていたけど
彼に人殺しが出来るのかといえば少々疑問が残ります。

そして争いの末、死んでしまった鯨と蝉、
実は二人には共通点がある。

小説や物語に登場する人物に影響を受けており
鯨は愛読している「罪と罰」の主人公のように
殺した相手の亡霊に取り憑かれるという幻覚に悩まされ、
蝉はガブリエル・カッソ監督(架空の人物)が撮った映画に強い影響を受けている。

これもまた個性というのであれば、
この物語はキャラクター主導で描かれていると言っても良いでしょう。

特に鈴木と妻の馴れ初めは殺伐とした世界から少しだけ抜け出すことが出来る面白いシーン。
ホテルのバイキングで食べきれないほどの料理を皿に盛る妻の姿を見て
思わず声をかけてしまった鈴木。

彼女いわく、「料理一つ一つの前に立って、食べたいか食べたくないか問いかける」
どれくらいの量になるかなんて考えないらしく
結果的にヒーヒー言いながらギブアップする。
そんな可愛らしい彼女を見て鈴木がホレたのでしょう。

そう、妻はとっても可愛いのだ。
それなのに奴に殺された・・・・。
だからこそ復讐しようと思い、場違いだけどヤツがいる組織のイチ社員として働き、チャンスを伺っていた。
でもターゲットとなるバカ息子は「押し屋」の手によって殺され、
自分の手で復讐をするという目的を失ってしまった。

押し屋(槿)の居場所を発見した時、
組織に連絡できなかった理由として

「彼が本当に殺したのか確証がなかった」

というより、本当は「バカ息子を殺してくれた恩人だから」
ということも考えられる。

もちろん押し屋に妻がいて子供が二人いて、
そこには普通の家庭があったから殺し屋とは思えないと考えるのも自然。

今までとは全く異なる環境に身を置いた主人の鈴木。
殺伐とした世界で彼は変わったのだろうか。
グラスホッパーという言葉は彼に当てはまるのだろうか。

今回はじめて伊坂幸太郎氏の作品を読みましたが
何だか惹かれてしまいそうな感じです。