犯人はどいつだ!?映画「怒り」原作の感想ネタバレあり

2016年9月17日に公開されることになった今作。
ホットな俳優陣たちが勢揃いということで話題になっていますが
「悪人」の原作者と監督の再タッグという点も気になるところ。

今回、上下巻ある小説を読んでみましたのでご紹介。
登場人物が結構多く、複数のストーリーが同時進行していきますので、
改めて内容を整理してみたいと思います。

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あらすじ

東京八王子の郊外にある新興住宅で夫婦が殺害される事件が発生。
犯人は妻を絞殺し、帰宅してきた夫を背中から刺殺したあと
犯行現場に6時間も居座っていたという、しかも全裸で・・。

犯人は現金だけを盗み、貴金属やアクセサリーはそのままにして
逃げていったことから単なる物取りではなさそうだ。

さらに現場には被害者の血で犯人が書いたと思われる「怒」という文字が残されていることから
謎は深まるばかり。

犯人は立川市に住む無職の山神一也(やまがみかずや)。
近所の目撃情報と自転車の無灯火運転で呼び止められた警察の証言(この時は逃走している)で
モンタージュが作成され、山神が特定されたが逮捕に繋がる有力な情報が得られないまま1年が経とうとしている。

殺人犯が未だ逮捕されていない中、素性の知らない男たちが現れる。
房総半島の港町にフラリとやってきた田代、
同性愛者が出会う場で両足を抱えてうずくまっていた大西、
そして沖縄の無人島にやってきた田中。

素性の知らない男たちと出会い、親密な関係になっていく人たち。
しかし1年前の殺人事件の指名手配犯と、なんとなく似ていると気づいた時、
周りの人間はどうするのか?

この物語は一見すると殺人事件を扱うサスペンスなのかと思いますが
実は3つのストーリーが同時進行していくヒューマンドラマ。

それぞれの物語をもう少し詳しくご紹介します。

「怒り」登場人物と3つの物語

山神は夫婦を殺害したあと現場で食べ物を物色し、
シャワーを浴び、各部屋を荒らした割には盗んだのは現金のみ。
全裸で室内を歩きまわるなど犯人の異常性が垣間見れた冒頭から、
それぞれ別の物語が進行していきます。

共通部分はどれも身元がわからない男が登場し、
犯人と特徴が似ているということ。

一体誰が犯人なのか?
というのがこの物語を面白くさせる要素だと思います・・・が、
そういう展開を期待していなかったということと、
犯人が残したメッセージや犯人の心理が明確にされないまま終わってしまったのは少々残念なところです。

1年以上も逃亡生活を続ける犯人の心理描写と、徐々に距離を縮めていく刑事という
ハラハラ・ドキドキ感はなく、むしろ別れが待っていたそれぞれの結末は悲しさだけが残る読後感でした。

房総半島編

主な登場人物
田代哲也:港町にフラリとやってきた青年
慎洋平:漁協で働いている
慎愛子:洋平の一人娘。最近家出から帰っていたばかり

房総半島の港町に住む慎洋平と一人娘の愛子。
最愛の妻を早くに亡くし、男手一つで育ててきた娘が大学卒業後に2度めの家出。
東京でプチ観光していたことから本人は軽い気持ちで家を出たようですが
男に声をかけられ、気がつけば夜の仕事をさせられていた、どこか抜けた女の子。

無事連れ戻し、また平穏な生活に戻った親子は田代哲也という男と出会う。
洋平が務める漁協に「仕事ありませんか?」と訪ねてきた田代は、
覇気がなく頼りない印象で、自身の事をあまり話したがらないことから
雇うのは少々二の足を踏むところですが、最近まで働いていたというペンションのオーナーの紹介状もあることから雇うことに。

何か事情があってこんな小さな港町に来たと思うけど、
そんな素性の知らない若い男と娘の愛子が徐々に打ち解け合って親密になっていく。

普段は無口なのに愛子とは気が合うらしく楽しそうに話している姿は
父親としてフクザツな心境ですが、やがて二人は父の許しを得て同棲することに。

これから若い二人は幸せな生活が待っている・・・
そんな矢先、一昨年に発生した八王子の強盗殺人事件の指名手配犯の顔写真と田代がなんとなく似ていることから
居てもたっても居られず、以前働いていた長野のペンションまで車を走らせた洋平は
”田代”ではなく”高橋”と名乗っていた事実に驚愕する。

不安は的中し偽名を使っていた田代はいよいよ怪しくなってきますが
既に同棲している娘の愛子は信じて疑わない。

田代本人いわく、親の借金を自分が背負わされることになり、取り立て屋から逃げ回っているから
偽名を使っている、ということらしいが・・・

しかしそれを本当に信じて良いのか、
もし犯人なら罪もない二人を殺害して逃げ回っているなんて許せない・・。
犯人じゃないからこそ、確認の意味で警察に電話した愛子でしたが、
その日、田代は家を出たまま戻りませんでした。
(その後は記事の最後の感想で・・・)

 

東京編

主な登場人物
大西直人:同性同士の出会いの場にいた男
藤田優馬:出会いの場で直人に声をかけて親密に
貴子:優馬の母、がんに侵され余命3ヶ月と宣告される
友香:優馬の兄嫁、親友でもある

この章では同性愛者の切ない物語が描かれています。
主人公の藤田優馬は出会いの場(男同士が出会う場所があるらしい)で膝を抱えて座っている大西直人に声をかけ
二人で食事をした後、自分の家に招き入れ、自然と同棲生活が始まった。

房総半島の田代同様、自分の事をあまり話したがらない彼に
自分の全てをさらけ出してしまっていいのか悪いのか、
それでも気がつけば彼のことを考える時間が多くなったのは確か。

彼の素性など特に気にしなければ何も問題ないのだが・・・
友人宅で窃盗事件が発生し、自身の携帯を盗み見た直人の犯行なのでは?と疑ってしまう。

更に指名手配犯の特徴である顔のホクロは直人にもあり
不審に思い始めた頃、いつもなら帰ってくる直人が戻らない。

窃盗で捕まったのか?
事故に巻き込まれたのか?
やはり指名手配犯だったのか?

優馬の頭のなかでグルグルと嫌な言葉が駆け巡る・・
病院にいる母の相手をしてくれたり、癌で亡くなった時、そばに居てくれたのが彼だった。
数日が経ち、もう戻らないだろうと諦めていた時、彼の訃報が飛び込んだ。
心臓に疾患があったらしく公園で倒れていたらしい。

直人を知っているという女性から詳しい話を聞くと、
彼は両親を早くに亡くし、親戚の家に引き取られるも馴染めず施設に入り
働きながら学業に励んだという。旅行会社で働くようになったけど
心臓の疾患が彼の体調を悪化させ、退職することに。

そんな人生を悲観していた時に出会ったのが優馬だった。

結局彼は窃盗犯ではなかったし指名手配犯でも無く
心臓が弱かった心のやさしい青年だった。
癌で余命3ヶ月と宣告された母の見舞いによく行ってくれたのも分かる気がする。
だけどもう彼は戻ってこない。

直人が倒れていたという公園のベンチで1人泣きながら謝罪の言葉を繰り返す優馬。
結局事件とは全く関係のないお話ですが心に残る悲しい悲しい物語でした。

沖縄編

主な登場人物
田中:無人島の廃屋で生活していた男
小宮山泉:沖縄の波留間島(実在しない)に移住し無人島で田中と出会う
小宮山真由:泉の母。男にだらしない
知念辰哉:泉の同級生、惚れている

(沖縄にある最南端の有人島:波照間島がモデルなのかな)

小宮山真由は泉の同級生の父親との不倫がバレ、
さすがに泉も学校へ行けなくなってしまったので夜逃げするように沖縄へ移住。
たまたま知り合いが波留間島でペンションを経営しているので
住み込みで働かせてくれるという。

波留間島の高校に通うことになった泉は同級生の知念辰哉と仲良くなり
辰哉がボードで無人島まで乗せて行ってくれた時に廃屋で田中と遭遇。
食料を買い込み、1人でサバイバルのような生活をしている彼のことが
何となく気になり始めた泉。でもこれが恋愛感情なのかどうかはわからない。

辰哉は泉に好意を抱いていることから奇妙な三角関係となりましたが
田中はその気がなく、辰哉も特にライバル視しているわけでは無く
むしろ田中を兄のように慕うようになった。

辰哉の家もペンションを経営しており、田中をバイトとして雇入れ
二人は仲の良い兄弟のような関係になるのですが
とある事件をきっかけに、もろくもその関係は崩れ去っていくのです。

まだ田中が辰哉の家のペンションで働く前、
泉と辰哉が那覇まで遊びに行った時に偶然街で会い、
3人で食事した後、田中は二人と別れ、その後に悲劇が起きてしまうのです。

食事をした時に辰哉は田中と一緒に酒を飲んでしまいグデングデンになり
仕方なく泉が一人で荷物を取りに行った時に米兵に襲われる。

未遂に終わったものの、深く傷ついた泉。
「誰にも言わないで欲しい」という泉の言葉を守り続ける辰哉。

田中が辰哉のペンションで働き始めて数日が経過したころ、
こんな小さな島に、あの殺人事件を追っている刑事二人がやってきた。

もしかしてあの田中さんが・・・・

無人島に用事があるという近所のおばさんのボートに乗せてもらい
田中が生活していた廃屋を調べてみると白壁に恐怖を感じるような「怒」の文字が書かれていた。

その時は怖くて直ぐにその場を後にしましたが
辰哉ともう一度来た時には草で隠れていた壁にとんでもないことが書かれていたのです。

「米兵にやられている女を見た・・・ウケる」

田中は二人と別れた後、偶然にも泉が襲われていた現場を目撃し、1人あざ笑っていたのだ。
全く知らない人間ならどうってこと無いことでも
田中を兄のように慕っていた辰哉の心情は計り知れない。

その日に辰哉のペンションで殺人事件が起き、辰哉は警察に連行され
全国に指名手配されていた山神一也の死が伝えられた。

八王子の強盗殺人事件は犯人死亡で真相は闇のまま、
呆気ない幕引きとなってしまいました。

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ということで3つの物語をざっくりとご紹介しましたが、犯人は田中でしたね・・。
う~ん、この終わり方はどうなんでしょうか。

殺害現場と廃屋に書かれたメッセージは?
夫婦二人を殺害するほどの負のエネルギーはどこから?

犯人の心情があまり見えてこない結末に消化不良気味ですが
そもそも作者はそこを重要としていないのか、その他の登場人物の感情にベクトルを置いたのか・・・
読み終わってふと感じたことがそれでした。

追記:もう一つの物語

山神一也の足取りを追う八王子警察署の北見と南條。
様々な情報に翻弄されながら、その中で有力な情報を得て徐々に犯人との距離を縮めていく。

その北見のプライベートな話がもう一つの物語なのです。
公園で拾ってきた人懐っこい猫が縁で黒川美佳という女性と交際することになり
多忙な北見に代わって彼女が猫の世話をするようになった。

しかし北見が刑事だとわかると彼女の態度が急変し、連絡が途絶え
それでも諦めきれない北見は、「決して詮索はしない」ということを彼女に約束し、交際は再開。

彼女にどんな過去があるのか、調べたいという衝動に駆られながらもぐっとこらえ
とくに進展しないまま二人の関係は続いていましたが、
可愛がっていた猫が死んだ日、北見は思い切ってプロポーズをした。

しかしその時、「君のことを調べた」と告げたとたん、彼女は感情的になり帰ってしまう。
本当は調べたわけじゃないけど、彼女の反応がみたい・本心は調べたいという気もちが強かったのでしょう。

もちろん彼女を怒らせるために嘘をついたわけじゃなく、
本当に好きだったから、受け入れるからすべて話してほしいという彼の訴えも虚しく
彼女はその場を去っていったのです。

結局、彼女の素性は明かされることはありませんでしたが、
「愛する人を信じれるか」という愛子と優馬の物語と共通する部分がありますね。
素性がわからぬまま去っていった彼女が非常に気になる物語でした。

さて、次のページでは房総半島編の結末も踏まえた感想を書いてみたいと思います。