映画「誘拐の掟」の原作「獣たちの墓」を読んでみた感想

2015年5月30日に公開となる映画「誘拐の掟」
原作ローレンス・ブロックの人気シリーズ・マット・スカダーでお馴染みの「獣たちの墓」です。

1976年から始まったこのシリーズは、これまでに17作品(+短編10作)も発表されており、今作は11作品目。
なるほどね、どうりで主人公の説明が少ないわけです、
出来れば第1作の「過去からの弔鐘」を読んで、
マットスカダーという人物を把握してから今作を読むと、より一層楽しめるかもしれません。

シリーズを経て酒を絶った主人公はエレインとの愛の慕情も描かれているだけに
ハードボイルドとは少し違ったテイストのような気がしますが
それでも作品の中に描かれる彼の交渉術や捜査力は素直にカッコいいと思う。
この作品は事件解決とともに新たな一歩を踏みだそうとする探偵の物語なのかと。
これをリーアム・ニーソンが演じるんだから観ないわけにはいきませんね。

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あらすじ

元は優秀な刑事だった主人公のマット・スカダー、
妻とは離婚し、ホテルを住居兼事務所とした私立探偵を生業としている

そんな彼のもとに「妻を殺した犯人を探して欲しい」という依頼が舞い込んできた。
依頼人は麻薬ディーラーのキーナン・クーリー、
身代金を奪われた挙句、無残な姿で帰ってきた妻、復習のための依頼だという。

決定的な証拠がないまま、妻が誘拐された現場や
犯人との通信記録を調べるなど地道な捜査が続く中、
新たな犠牲者が・・・。

今度は別の麻薬ディーラーの娘が誘拐されたという一報が届く。
犯人は猟奇的殺人鬼で助かる見込みは極めて低い。
マット・スカダーはその巧みな交渉術と捜査力で犯人から娘を無事救い出すことが出来るのか。

というのが簡単なあらすじになります。

 

「獣たちの墓」感想

さすがにシリーズ11作目となるので、主人公の生い立ちが少々不透明。
なぜ刑事を辞めて妻と離婚し、ホテル暮らしをしているのか、
「君たち読者なら説明は不要だろ?」てね、
私は読んでいませんが、どうやら1作目でマットスカダーという人物を詳しく知ることが出来るようです。
(マットスカダーを好きになってしまったら読まずにはいられないでしょうね)

さて、
本書は恐ろしく猟奇的な殺人鬼を相手に翻弄するマットが描かれていますが
既に殺された女性の夫からの依頼なので犯人探しは中盤まで緊迫感は少々薄い・・・、
確かに犯人の足取りを追うため、ハッカーを雇って通信記録を調べるとか
当時の時代背景を思わせるポケベルの登場など、楽しめる要素はありますが
「女の子が誘拐された!」辺りからようやく緊張感が出てきます。

やっぱり緊迫感や緊張感って大切ですよね、
これまで複数人の女性が殺害され、警察も動きましたが連続殺人事件として扱わず
未解決事件として取り扱っていたわけですが、その一つ一つの事件がマットによって繋がっていくわけです。

注目すべきポイント
妻を誘拐し殺害され身代金も奪われてしまった麻薬ディーラーは、
要求された身代金を値切ったために妻が殺されたと後悔しているとおり
犯人との交渉に落ち度がなかったとは言えない。

そして10代の女の子が誘拐された時のマットの対応はどうだろうか、
次は絶対に救出しなければならないという責任と重圧の中、
彼が取った交渉は立場は常に対等であり、それ以下でもそれ以上でも無い、
時には揺さぶりをかけるという危険な方法や犯人をつけあがらせない彼のやり方は、
さすがに周りも焦りましたが、犯人は彼の交渉に素直に従った。
これは大きな成果といえよう。

実はこの巧みな交渉術が本書を面白くする醍醐味の一つでもあるのです。

そして犯人と1人で対峙した彼の勇気、
殺されるかもしれないという危険な仕事でも恐れずに立ち向かう姿は
男らしさというか、これぞまさにハードボイルドという印象を受けます、この部分だけはね。

また依頼人も犯人を探して欲しいという最初の依頼から
女の子を救出して欲しいという気持ちになったのは言うまでもありませんが
当初の趣旨から徐々に変化していき、
やがて読者も含めた全員が女の子が無事救出されることだけを願うという一体感はなんともいえない。

結局女の子は体にキズを負ってしまったものの無事救出されたわけですが
事件が解決しても後味が良くないのは致し方ありません。

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映画では描かれない男女の恋愛心理

妻と別れホテル暮らしをしているマットは娼婦だったエレインと交際。
但しお互いの立場を理解してか、二人は肉体関係はあるもののお互いの関係を確かめ合う言葉は避けていました。

彼女は良く出来た女性で頭も冴えておりマットのビジネスパートナーとしても活躍しています。
次作かそのまた次の作品か分かりませんが、二人は結婚するらしいのですが
今作では正直に今の気持ちを打ち明けて更に親密な関係を築くような雰囲気で終わっていますが
実はこのマットの打ち明けが長い長い、とにかく長い、

「自分でも何が言いたいのかわからない・・。」

と言いながら2ページも費やした彼の気持ちというのは、
一緒に住むべきか、結婚すべきかとかごちゃごちゃ言ってるので男らしくないんです。

実はマットは犯人と対峙するよりも彼女にこの事を打ち明けるほうがよっぽど勇気がいると言っていました。

こんなハードボイルドっている?

スマートに

「エレイン、君を愛してるよ。」と、
アメリカ映画らしくこれくらいのことをサラリと言えばカッコいいと思いますが
なんせ11作品目から読んだ私はまだ彼のことを知らないのかもしれませんね。

でも最初にハードボイルドじゃないテイストと言ったのは
こうした煮え切らない男性が描かれていたためなんです。

ある意味、仕事は完ぺきにこなすけど色恋沙汰となるとからっきしダメという
母性本能をくすぐっちゃう男としては良いのかもしれませんが・・・、
ただ、彼は一度離婚しており結婚に二の足を踏んでいるのは事実で、
一歩前に踏み込めないのは何となく分かる気がします。

ちなみにエレインは映画で登場しないようですね、
ということは映画はハードボイルド感は満載かもしれません。
渋いリーアム・ニーソンに期待!!

 

アメリカで絶大に人気を誇った理由

猟奇的な殺人事件・・・。
実は二人組の男がバンに女性を強引に乗せてイタズラをした挙句に殺害するという
同じような事件がアメリカで発生してるんです。怖いですね・・。

ローレンス・ビッテイカーとロイ・ノリスの二人は
1979年に5人の10代の女の子を殺害。
それはひどく猟奇的で残忍な殺し方で全米を恐怖に陥れた事件でした。
運良く1人だけ命からがら逃げ出した女性がいましたが、恐怖で犯人の顔や車のナンバーをおぼえておらず
犯人逮捕につながらなかったそうですが、
犯人が自慢気に殺人話をしたことがきっかけで逮捕さらたようです。

今作も犯人は二人組で誘拐に使った車はバンなので実際に起きた事件と酷似しており、
更に上記の事件と同じ様に命だけは助かった女性が1人いるという設定も興味深いところです。
現実に起きた凶悪事件を題材にすることで緊張感が増すのでしょう。

もちろん入念なストーリー設定や魅力あふれる個性的な登場人物もこの作品の面白さだと思います。

ちなみに黒人少年がマットの相棒として登場しますが
この白人のおっさんとの奇妙な関係もまた作品としてバランスがとれているのでしょう。
この少年、かなりの働きっぷりをみせますよ。