映画「きみはいい子」原作本の感想「私もきっと誰かを救うことが出来る。そう感じる本です」

6月27日に公開となる映画「きみはいい子」は
虐待、いじめ、認知症など現代社会の問題を取り上げた作品。

子供が犠牲となるニュースが後を絶たない昨今、
何か解決の糸口は無いのだろうかと作者は物語を通じて
社会に、そして読者に問いかけている、そんな内容です。

今回は中原初枝さん著書の原作を読んでみましたので
感想とともに内容をご紹介したいと思います。

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もくじ (文字クリックでジャンプ出来ます)

あらすじ

この本は、

「サンタさんの来ない家」
「べっぴんさん」
「うそつき」
「こんにちは、さようなら」
「うばすて山」

の5作品からなるオムニバス形式で構成されており、
どの作品も子供への虐待が大きなテーマとして描かれています。

興味深いのは、この5つの物語が少しずつどこかで関連してること。
登場人物は桜ヶ丘という同じ街で生活し、何か問題を抱えています。
そんな中で人と人との繋がりの大切や、暖かさを感じる作品です。

それでは一つ一つの作品を簡単にご紹介

 

「サンタさんの来ない家」

少年と向き合うのは小学校の新人教師・岡野。
叱っても言うことを聞いてくれない子供、叩けば体罰、
扱いづらい問題児とどう向き合えば良いのか
案の定、学級崩壊させてしまった新人教師は1人の少年の異変に気づく。
学校が休みの日も校庭にいたり、数日同じトレーナーを着ている神田くん。
どうやら母親の再婚相手の男に問題があるようだ。

その男に「17時までは帰ってくるな!」と言われてる神田くんは、
いつも同じ場所で1人、ポツンと待っていた。雨の日はしずくが落ちる場所なのに。
学校で雨風がしのげる場所ならいくらでもあるのに・・、なぜ?

どうやら校舎の壁にある時計が、そこからだとよくみえるらしい。
17時までは帰れないのだから・・・。
ご飯もろくに食べさせてもらえず、やせ細ったこの子を新人教師は救うことが出来るのか

 

「べっぴんさん」

自身も虐待された経験を持つ母親が同じ様に娘にも手を上げてしまう。
旦那は単身赴任で海外勤務、子育ては自分だけ、
ストレスを上手くコントロール出来ず、矛先は子供へ。
アザができるまで子供を叩く母親。

でもその異変に気づいていたのはママ友でした。
彼女は1人で抱えていた問題を共有できるママ友の関わりで、
娘を抱きしめる母親に戻ることが出来るのか。

 

「うそつき」

初めて息子が友だちを連れてきた。
息子はいわゆる母親に似て素直でいい子。
遊びに来た友達いわく「継母にご飯を食べさせてもらえないから殺される」という。
当然息子は「そんなの嘘だよ」と思ってるようだけど、
ドンドン痩せていく友達を見ると、あながち嘘じゃないようだ。

遠く離れたわが家に自転車を漕いでやってくる友達。
出来ることは家族の一員として接してあげること。
我が家に来た時は沢山食べさせてあげよう!

ただ、遠く離れた友達とは同じ中学に通えない。
息子はそれをどう受け止めているのか、
そして父親の自分は少年時代に仲が良かった友達との思い出と重ねあわせる。

 

「こんにちは、さようなら」

桜ヶ丘で孤独と戦う一人暮らしのおばあちゃん・あきえさん。
1年生になったばかりのピカピカの小学生が春になるとピンポンダッシュするけど
春の訪れを感じる行事の一つとして全く怒らないあきえさん。

そしていつもすれ違う度にちゃんと「こんにちは」とあいさつするひろやくん。
ある日、鍵をなくしてしまい、家に帰れないというから、あきえさんはひろやくんを預かることに。
慌てて飛んできたお母さんの話を聞くと、どうやらひろやくんは障害のある子らしい。

過去に思いつめて心中を考えたり、息子を虐待した事を告白してくれたお母さんもまた
この桜ヶ丘で孤独を感じていたという。

子供を通じて偶然知りあった二人。少しだ明るい未来が見えてきそうです。

 

「うばすて山」

姉妹で長女の私だけが母親から虐待を受けていた。
そんな母親も認知症を患い、今では娘の私でさえもわからない。
介護は全て妹が引受け、どうしても3日間だけ預かって欲しいということで母親を預かった。

よみがえるのは良い思い出がない子供時代。
笑ってくれなかった母親。
3日間の介護で、彼女は過去の記憶を精算し、前に進むことが出来るのか。
全てを葬り去りたかった過去の記憶の中に母親との思い出が蘇る・・・。

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感想

この本に登場する「しあわせ」という字は「仕合わせ」になっています。
良い意味でも悪い意味でも人と人との「めぐり合わせ」という意味ですが
もちろん作者が用いたのは良い意味です。

そして物語の登場人物は意外なところで接点があります。
例えば子供がピンポンダッシュしたおばあちゃんの家に謝りに行った教師は
1話の岡野さんだったり、「うそつき」で登場した父親と「うばすて山」の主人公は
子供時代に遊んでいたり。

読み終えてみると、桜ヶ丘という小さな街のどこかで誰かが巡りあっているのだと。

 

そう言えばこの作品を通じて作者は、

世界を救うことはできなくても、まわりのだれかを救うことは、きっと、だれにでもできると思う

と語っています。
毎日沢山のニュースが流れる中で、ポツリポツリと必ずある幼児虐待という悲しい文字。
全ての物語に共通して出てくる重いテーマですが、
それぞれ異なる家庭環境で、どのようにして虐待が行われるのか、
そしてされる側だけでなく、する親たちの心理もうまく表現されていると思います。

最後に

3話「うそつき」の夫の優しさについて。
妻は卵の黄身がキライでいつも夫が食べていましたが
実は夫も好きではありませんでした。

妻は幼いころ、食べ物を残すと母親に怒られていたので
おばあちゃんがコッソリ食べてくれていたのです。

そんなおばあちゃんももちろん、黄身が好きじゃありませんでしたが
孫のことを思うと食べずにはいられなかったのでしょう。

結婚前に亡くなったおばあちゃん。
一度だけ会った夫は、おばあちゃんから黄身のことを聞かされたという。
だからこのことはおばあちゃんと孫娘の夫との二人の秘密なんです。

そして妻はいつもじゃんけんでチョキを出す。
わざと負ける夫、息子の友達もわざと負けてたっけ。
私もたまにはわざと負けてみようと思う。

こんな感じで心温まるエピソードが散りばめられた「きみはいい子」

映画ではこの5つの物語から

  • 「サンタさんの来ない家」
  • 「べっぴんさん」
  • 「こんにちは、さようなら」

の3つを原作として作られたそうです。
映画を見終わったあと、きっと誰かを抱きしめたくなりますよ。