2016年11月12日に公開されることになった今作。
こうの史代さんの漫画が原作となっており、上中下の3巻が出版された後、
前編・後編の2巻セットが再販され、安かったので2巻セットのほうを買ってみました。
昭和の雰囲気たっぷりのタッチで描かれる絵は温かみがあって物語にとてもマッチしており、
戦時中の生活や辛くても力強く生きる主人公のすずがとてもかわいらしく描かれています。
物語は終戦間近の昭和19年から原爆が投下された昭和20年の2年間が描かれますが
広島市ではなく、主人公が嫁いだ呉市が舞台になっています。
もくじ (文字クリックでジャンプ出来ます)
「この世界の片隅に」あらすじ
1943年12月、
主人公の浦野すずは広島市から呉市にある北条家に嫁ぎ、周作の妻として新たな生活をスタートさせました。
すずの性格は温厚でおっとりとして、幼い頃から絵を描くことが大好きで、
時間があればスケッチをするような女の子。
一見すると頼りないように見えますが、
戦時中の厳しい生活の中で、母親から受け継いだ生活の知恵を活かしてやりくりする姿はまさに嫁の鏡。
そんな北条家に夫を病気で亡くした周作の姉が娘を連れて戻ってきたので生活が一変。
小姑らしくすずに厳しくあたったり、時には邪魔者扱いしますが意外にもマイペースを崩さないすず。
義理の両親や夫の周作の愛情に囲まれていれば小姑が突くぐらいどうってこと無い、と言う感じです。
ヤキモチ
すずが闇市で砂糖を買いに行った時に道に迷ってしまい、
声をかけてくれたのが白木リンという女性でした。
彼女は小学校を卒業していなかったので読み書きをすることが出来ず
すずはお礼に得意のスケッチで美味しそうな食べ物を描いてリンを喜ばせました。
リンはいわゆる男性を相手にする商売をしており、
すずの夫である周作もまた彼女の客として足を運んだ1人でした。
周作は字がかけないリンにノートの切れ端で名札(名前・住所・血液型)を書き
彼女はお守りの中にその切れ端を大事に入れていました。
運が悪いことに周作のノートを見てしまったすずは、
リンが「お客さんに書いてもらったんだよ」と言っていたのは夫のことだと気づいてしまったのです。
周作とリン・・・
遊びとはいえヤキモチを焼かないはずもなく、
夫に言えないまま悶々と過ごす彼女もまた夫を悩ます相手がいたのです。
水原てつは、すずの小学校からの幼なじみで海軍に入隊し
重巡の青葉の乗員として活躍していました。
久しぶりにすずのもとを訪れ、仲良さそうにする二人。
それを黙ってみていた周作ですが、やっぱりすずと一緒でヤキモチを焼いていたのは言うまでもありません。
しかし水原とはもう二度と会えないかもしれない、
だから二人の時間を作ってあげても良いかなと、周作なりに気を使う優しさも垣間見れた。
周作は不器用だけど優しい夫であることは確かですが、
その優しさはすずにとってぞんざいに扱われたと受け止めてしまい、
夫婦喧嘩の発端になってしまいましたが、確かにこの夫婦は子供が出来ないので
すずは自分を責めていて、そんな時にリンという女性の存在を知り、
夫の周作に怒りをぶつけたかったのかもしれません。
家族を亡くす悲しみ
戦争も末期に入り、日増しに空襲がヒドくなる呉市。
空襲でケガをした義父がいる病院に義姉の娘・晴美とともに出掛けた時に
転がっていた爆弾が爆発し晴美は亡くなり、すずも右手首を失うことになってしまった。
今まで辛い思いをしてきても家族が居るから頑張れる
絵を描くことができるから頑張れると自分に言い聞かせてきたすず。
晴美を失ったのは自分の責任だと感じ、
そして右手を失った今、足手まといだから帰ったほうが良いかもしれない・・・
そう考えたすずですが、
夫の優しい言葉や義理の姉の「居て欲しい」という言葉に救われた彼女。
生気を失っていた彼女の目にほんの少しですが光がさした瞬間でした。
広島に原爆投下
昭和20年8月6日、広島に原爆が投下され、すずの両親はその犠牲になり
唯一妹のすみが生き残っていた。
広島では家族を探す風景があちこちで見られました。
そんな光景を見ていた周作はすずに向かって「すずさんはすぐ分かる」
ここにホクロがあるから、と。
すずは覚えていないけど、周作は子供の頃にすずと会い、
その時からずっと彼女のことを思い続けていたのかもしれない。
となり町に嫁ぐことになり、一体だれが私なんかを選んだのかと思ったけど
実は幼なじみ以上にすずのことを思っていた男性だったんですね。
広島からの帰り道、
両親を失った戦争孤児と出会い、何も言わず連れて帰る周作とすず。
セピア色だった風景が色鉛筆で着色され、新しい家族とともに希望に満ち溢れた未来に向かってゆっくりと歩き出す家族がそこにありました。
あらすじをもう少し詳しく知りたい方はこちらの記事に書きました
忘れてはいけない時代がここにある「この世界の片隅に」の感想
主人公の子供時代、そして呉に嫁いでからの約2年間が描かれるこの作品。
2年間と言ってもごくありふれた生活ではなく、
戦火に追われ、食料や衣料、生活用品など不足していた時代に
知らない男性と結婚し、知らない土地で生活するという今では考えられないお話です。
しかし凄く悲しい物語のはずなのに、決してどんよりとしておらず、
戦争時でも笑顔を絶やさないすず達の前向きな生き方がこの本の明るさを保っていました。
物がない時代にどうやって生き抜いていくか、戦時中の暮らしを知りたいなら
小難しい本よりも、分かりやすいかもしれません。
たんぽぽを食べたり、刻みネギの代わりがみかんの皮だったり
木炭の代わりに落ち葉で作った炭団(たどん)を燃料にしたり・・・・
洋服だって支給された点数分しか購入できなかったり。でも点数があっても物がないから買えなかったり・・・。
そんな生きづらい時代は本当にあったわけで、
戦争をしらない私たちはこの時代に生きた人たちのことを忘れてはいけないし、
語り継いでいかなければいけないなと切に思う。
さて、ちょっと真面目なコメントになってしまいましたが、
戦時中は都市部も大変でしたが広島と長崎は本当に悲惨だったと思います。
ちょっと読みにくいところもありますが、子供たちが戦争を知る良い漫画だと思います。