家族を考える「朝が来る」辻村深月の原作小説の感想ネタバレあり「血の繋がりは関係ない」

2016年6月4日からフジテレビ系で放送スタートとなる今作。
前回の土ドラはサスペンス要素たっぷりで怖かったですが、
今回は社会派小説ということで、とても身近な問題を題材としています。

夫婦役にココリコの田中さん、そして珍しいけど母親役にぴったりな安田成美さん、
そして謎の人物を演じるのは川島海荷さんです。

今回、ドラマが始まるということで早速読んでみましたが・・・
泣けました・・;; 久しぶりに胸にジーンと来た作品。

これから作品を詳しくご紹介しますが、
ドラマで片倉ひかりを名乗る謎の女が登場しますが
このページはネタバレしますので、まだ知りたくないという方はお気をつけ下さいね。

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もくじ (文字クリックでジャンプ出来ます)

著者・辻村「朝が来る」あらすじ

養子縁組の制度を利用して子供を迎え入れることになった40代の夫婦と
10代で子供を妊娠・出産し、我が子を人に託した女の子の物語。

「主人公である片倉ひかりはどうなってしまうのだろうか」
というストーリー展開も気になりますが、この小説は2つの家庭にスポットを当てて
「家族ってなに?」、「血の繋がりってホントに重要なの?」ということを問いかけています。

物語を読んでいるというよりも養子縁組について深く考えさせられたり
望まれずに生まれてくる子供、そして子供が出来ない夫婦のことなど実社会で起きている問題を取り上げています。

彼女は誰?

特別養子縁組の制度を利用して男の子を授かり6年が経つ。
子供に恵まれなかった40代の栗原清和・佐都子夫妻の元へやってきた朝斗は
現在幼稚園に通っていて、来年は小学生。

本当に普通の家族そのもので平穏に暮らしていたけど、ここ一ヶ月不審な電話が掛かってくる。

無言電話が続いていましたが
ようやく相手が言葉を発したと思ったら、

「カタクラです、子供を返してください」

という。彼女は朝斗を産んだ母親(片倉ひかり)だといい、
返したくないのならお金をください、どちらも出来ないなら
周りの人や学校に養子の事をバラしますよ、と脅迫まがいなことまで言ってきた。

だけど彼女の話は疑問点が幾つかある

・学校と言ったけど麻斗はまだ幼稚園
・母親がお金の話をするのはオカシイ
・連絡先をなぜ知っていたのか

6歳だから単純に1年生だろうと勘違いすることもありますが
子供を返してくれないならお金をくれというのは母親が言うだろうか。
そして栗原家の個人情報に関しては、
もし、母親が朝斗に会いたい場合は連絡先を教えても良いと団体に告げてあるので
知っていてもおかしくはないが、事前に団体から連絡がないのは怪しい。

確かに団体「ベビーバトン」は3年前に事業をたたみ
別の団体が引き継いだようですが、個人情報の取扱いはしっかりと行っているとのこと。

カタクラと名乗る彼女はどこで連絡先を手に入れたのか?
彼女は本当に母親なのか?

電話で話をする内容ではないため、実際に彼女と会ってみると、
赤ちゃんを預かった時に一度だけ母親を見たことがあるけど明らかに雰囲気が違う。
顔色が悪く髪はボサボサ、身なりが悪いので経済的にも困っているのだろう。

お金の無心はともかく、周りにバラすと言う脅迫は夫妻にとって脅迫にはならなかった。
と言うのも周囲の人達には養子をもらったことを伝えており
朝斗にも、もう一人のお母さんがいるということを小さいうちから話をしていた。
当時、朝斗を産んだ母親は中学生、あちらの家族同伴のもと、広島で受け渡しをしたので
栗原家では”広島のお母さん”と呼んでいたのだ。

結局、女は諦めて帰ってしまいましたが
その一ヶ月後に女性の写真を持った刑事が訪ねてきた。
その女性はカタクラと名乗ったあの女で、現在行方不明になっているという。

刑事が探しているこの女性は一体・・・

 

家族の絆

栗原夫婦が養子縁組の制度を利用して朝斗を迎え入れるまでの道のりは辛く厳しいものだった。

夫婦生活は2年目辺りから避妊をしなくなったけど
一向に出来る気配がなく、気がつけば30代。夫婦で話し合い不妊治療をすることに決めた。

しかし夫はどこか他人事で
不妊治療は子供を生む女性だけの問題ではなく、夫婦の問題のはず。
そんな話の流れだったこともあり、「これは・・?!」と思ったら案の定、原因は夫にありました。

難しいことは割愛しますが、いわゆる無精子症と呼ばれるもので
清和の場合は精子を作る能力はあり、妊娠のチャンスが断たれたわけじゃない。

しかし残された不妊治療は、今住んでいる神奈川県から遠く離れた岡山県まで
飛行機を使っていかなければいけない。

もう既に不妊治療を始めてから4年が経過して
夫婦の間にも希望の光は失われつつあるのがわかる。

1回、2回、そして3度目の治療を行うため、岡山行の便に乗ろうとしたら
大雪で欠航、空港では足止めされた大勢の利用客が疲れた様子の中、
夫もまた力尽きた表情で俯いていた。

そんな清和をみて佐都子は
「もうやめようか・・」と、優しい言葉をかける。
「止めたいって言えなくてごめん」と泣きながら話す夫の気もちが痛いほどわかるし
夫婦が肩を抱き合い涙を流すこのシーンは読んでいて非常に辛い場面でした。

二人で生きていこう・・
そんな思いで自宅に戻り、何気なく見ていたニュースで
養子縁組について特集が組まれていた。

その時に特別養子縁組という制度を知り、
制度の趣旨に賛同した夫とともに、赤ちゃんの受け入れを整えた。

「親が子供を探すためではなく、子供が親を探すための制度」

”子供がほしいから養子縁組になるという大人の事情ではなく、
望まれず生まれてきてしまった子供たちの未来を考える”ということ。
妻の佐都子もそんな優しい夫を持ってよかったと思える瞬間でした。

そして広島で赤ちゃんが生まれた!という知らせを受け、
夫婦で飛んでいき、中学生のお母さんから可愛らしい男の子の赤ちゃんを授かったのです。
名前は朝斗。6歳で今は幼稚園に通っている。

そんなある日、幼稚園で問題が起きた
ジャングルジムでお友達が落ちてケガをした時、
友達は朝斗が押したと言ったけど、朝斗はやってないという。

もちろんお母さんの佐都子、お父さんの清和も息子を信じている。
うちの子がそんなことをするわけがない。

友達のお母さんからキツイことを言われても
変な噂が流れて立場が悪くなっても息子を信じている。

まだ幼い息子が、
「ねえ、やったって言った方がいいの?」
こんな言葉を言われたら間違いなく息子の前で我慢できずに泣いてしまうだろう。

案の定、お友達が嘘を付いていたという事がわかり
息子の疑いが晴れ、何事もなかったかのように日常が戻る。

この幼稚園での出来事でわかるように、
苦難を乗り越えた夫婦の絆、そして幼い子供との信頼関係が垣間見れる。

でも、どうだろうか、次に紹介する家族は血のつながったどこにでもある家族、
なのですが、どうも様子がオカシイんです・・・

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見せかけの家族

片倉ひかりは両親と姉の4人家族。
父と母は教師で、とにかく真面目「学生が交際なんてまだ早い」という考え方で、
父は娘二人とどう接してよいか分からず、関心があるのか無いのか中途半端な態度。
娘達の携帯も黙ってみてしまうプライバシーのない家族だ。

姉は両親の希望通り私立中学に合格し”頭の良い真面目な子”に成長しましたが
勉強が出来なかったひかりは私立中学へ入れず、公立中へ入学した辺りから
両親との溝が徐々に深まっていった。

幼稚園から中学2年まで姉とともに習い始めたピアノ。
発表会は家族4人でおめかしして出掛け、
レストランで食事をして帰るというのが定番だった。

楽しい家族の食事風景・・・

大人になったあかりが”家族”を考える時、この時期のことしか思い浮かばない。

あかりは中学2年の時にクラスで人気の男子と交際をスタート。
しかし思春期の男女が体の関係にまで発展するのに時間はかからなかった。

案の定、あかりは妊娠してしまい、
発覚した時は既に堕ろせない時期まで来ており子供を出産するしかなく、
両親は養子縁組を仲介する「ベビーバトン」に連絡し広島で出産することに。

出産後、赤ちゃんは神奈川県に住む40代の夫婦に引き取られ
あかりは彼らに直接会って「お願いします」と泣きながら我が子を託した。
これで日常の生活に戻れる・のか・・・というより彼女は母親と生活が出来るのだろうか。

母親は世間体を気にし長期休暇理由を肺炎とし、
学校で普通に生活できるように出産という事実を隠した。

「姉と同じ私立に入っていれば、こんなことには・・・」

今のあかりを見ずに、もし何々だったらという幻想ばかり考える母親に対して嫌悪感を抱かずに入られない。
人生の楽しみ方を知らない母親の狭い世界。あなたと同じ人生なんてまっぴらごめんだ。

その後に度々母親と衝突し、高校受験失敗の事実を知った母の
「やっぱりね」という一言で何かを悟った彼女。

ああ、母親と関係を絶つにはどうすればよいのだろうか。
家出は衝動的というより、ずっと前から考えていた。
とりあえず赤ちゃんを出産した広島のベビーバトンに行ってみよう。

長くなってしまったので2ページに分割しました。
次のページでは家出をした少女の波乱の人生、そして彼女の行き着いた場所とは?