泣ける結末!原作小説「父と子の旅路」あらすじと感想・ネタバレあり

「父と子の旅路」の真犯人は一体誰なのか?

光三が犯人ではないとすると、真犯人は一体誰なのか?

そもそも突発的な強盗犯なのか、計画的な犯行なのか、警察は光三が犯人であると結論づけているので、「強盗」ということになっているが、祐介は計画的な犯行だとしたら?ということを推理してみた。

26年前、光三があかねの実家・花木家(礼菜の祖父宅)を訪ねた時、そこは大富家が住んでいた。だから光三は大富家を訪問後に花木家を訪れている。

光三と同じように花木家と間違えて大富一家を殺したのではないか?

その疑わしい人物はただ1人、あかねの再婚相手・河村真二だった。チンピラだった河村は収入はあかね頼りで自分はギャンブル三昧。たちが悪いことにあかねの実家にまで押しかけて、金の無心に来ていたという。

しかし実家から勘当されているあかねは遺産を相続できない、もしくは他の兄弟に取られてしまうと考えた河村は、「なら一家を殺してしまえば、あかねに遺産が入る」と思ったのだろう。

しかし、花木家と思われた家は大富家で、全く関係ない人間が巻き込まれたことになる。

河村は既に死んでおり、確たる証拠もみつかっていないので、推測の域を脱することは出来ないが・・・・

 

あかねは夫のことになると、硬く口を閉ざしてしまい、26年前の事件について何か重要な手がかりを握っているのではないかと祐介は考えていた。

現在、あかねは末期がんで余命わずか。残された時間は限られており、説得の末、あかねは当時のことを話し始めた。

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あかねが犯行を自供?!

あかねは、河村真二が大富一家を殺したというのを本人から聞いたといい、押し入れにあった包丁と血の付いた服は河村の墓の中に隠したという。

さらに、河村はチンピラ同士の喧嘩の末に殺された事になっていたが、実は喧嘩で負傷し公園で倒れているところに一撃を加えたのはあかね本人だという。

実家を襲う予定だった河村。襲うように命じたのではないかと実家に疑われるのが怖かったという。と言うのも河村は、あかねに対して「本当のことを喋ったら、実家を襲うようにあかねに命令されたと言うからな」とあかねを脅していたらしい。

あかねの証言により、すぐに河村の墓を調べた結果、凶器と思われる包丁と血の付いた服を発見!

しかし光三は死刑執行の日を迎えようとしていた・・・。

 

間一髪、中止になった死刑執行

凶器が発見されたことで、祐介はすぐに再審請求をし認められたが、実は死刑執行の当日を迎えていたのだ。

しかし刑務官たちは凶器が発見された情報を入手し、ルールを無視して死刑を中止にした。

裁判で晴れて無罪を言い渡された光三は26年という長い獄中生活に終止符をうてたのである。

しかし気になるのは光三は死刑が執行されても良いと考えていたこと。彼は26年間、息子について沈黙を守り続け、死刑を望んでいたわけだが、彼は何を秘密にしていたのか?

 

意外な人物が光男だった

大富家が惨殺された事件で唯一生き残っていたとされる息子。実は殺されていたのである。

事件後、殺害現場となった大富家に帰ってきた光三は、家族全員が殺されている光景を目撃し愕然とする。しかしあかねの実家に息子を預けようとしたが断られ、途方にくれていた矢先である。

自分の子供と大富家の子供を入れ替える。そんないつバレるかわからないアイデアを思いつき、考える余地もないので、亡くなった子供を抱えて、自分の子供を大富家に置いて、逃げ出したのだ。

もちろん、母子手帳などは破棄し、大富家の子供は岐阜にある寺の本堂下に埋葬したという。光三にとって唯一心残りだったのが、そのことだったのかもしれない。

そう、光男=祐介だったのである。

妹の子供として育ててきた両親は、実は何も知らなかったわけではなく、妹から子供のアザについて聞いたことがあり、それが今回引き取った子供になかったことから異変に気づき始めたという。

犯罪者の子供かもしれない・・・。しかし子供は関係ない、祐介として立派に育てようと夫婦は決意したのである。

 

光三が一番恐れていたことは2つ

犯罪者の子供を育てていたことを知られてしまったら相手に悪い・・・

祐介(光男)がそのことに気付いたら生きていけないはず

この2点があるため、26年間、沈黙を守っていたのだが、祐介本人から「両親は犯人の子供だということを知っている」「自分が光男ですよね?」ということを聞かされ、疑いも晴れたので、身も心も全て開放されたのである。

 

甘い恋愛は成就せず

礼菜が祐介に弁護を依頼し、二人が行動を共にするようになり、心の距離がグッと近づいた時、祐介は自分が光男であることを知る。

祐介と礼菜は兄妹で、礼菜が探していた兄は自分ということを知ってしまったのである。

お互いに惹かれ合っていたのに、血の繋がりでゴール出来なかった二人。礼菜は父親が殺人犯だけでなく母親までも殺人犯という現実を1人で受け止めることは到底難しいでしょう。しかし「兄として君を守る」という心強い言葉に礼菜は素直に喜んだ。

 

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感想

「冤罪」を扱った小説ですが、子を思う父親の愛情を描いた物語。

光三は子供時代から不幸の連続で、あかねと出会い結婚して幸せな家庭を手にれたと思った矢先、また不幸の波が押し寄せる・・・。

彼は26年ぶりに息子と再開し、立派な姿を見ることが出来て、それだけで幸せだと思っていました。自分の人生を犠牲にしてきましたが、悲観的にならず、むしろ幸せだったと思う彼は、どこまで自己犠牲の精神が高いのかと驚かされます。

祐介(光男)が面会に来た時、びっくりしたでしょうね。

ちなみに祐介と一緒に暮らすのかと思いきや、故郷に戻り、そこで1人で暮らす選択をしたのです。著者の小杉健治さんは最後の落とし所をどうするのか迷われたそうですが、柳瀬光三は自分自身でもある、ということをあとがきで書かれていました。

「原点に帰る」ということですね。

東京大空襲のテーマにした作品「灰の男」、戦争の影を引きずった内容の「残照」。この二作品で1つの区切りをつけて、新たに挑戦したのが今作です。

家庭内暴力や虐待が世間を騒がせる世の中、家族とはどういったものなのか?

作者が思い描く「愛情」がヒシヒシと伝わってくる内容。また光三の人柄が周囲に与える影響も大きく、彼が死刑執行を受ける前日に、皆でお別れ会を開くのですが、この場面が涙なしでは語れません。

久しぶりに感動した作品でした。