前回は、同作のあらすじなどをご紹介しましたが、今回は主人公を中心とした名台詞をいくつかご紹介したいと思います。
自殺に失敗し、自分の命を売りだしたことで物語が急加速する、スリル満載で、ちょっぴりハードボイルドな男の物語。
三島由紀夫の作品は初めて読みましたが、エンターテイメント性が高い作品です。
もくじ (文字クリックでジャンプ出来ます)
1、最初の依頼人である老人とのやり取りで
「君は自動販売機みたいな妙な男だ」
「そうですよ、コインを放り込めば、それでいいんです。機械は命がけで働きますよ」
家出をし不倫した若妻と一緒に死んでくれないか?と依頼してきた老人とのやり取りです。
主人公の山田羽仁男は死ぬことはなく、若妻だけが死ぬ結果となり、契約終了後の老人とのやり取りで羽仁男が言ったセリフです。
死ぬ危険があったとは思えないほど冷静すぎる羽仁男を見て、思わず老人も自販機と言ってしまったのでしょう。
2、少年とのやり取りで
「僕の命が20万円に値踏みされても、30円に値踏みされても、別に何の違いもないさ。お金が世の中を動かすのも生きていればこそだからね」
人生を捨てた羽仁男にとって「お金」の価値は無いに等しい。今回も依頼を受けたことで、「死」が近づいたと感じた羽仁男が言った一言でした。
3、大使に言ったひとこと
「人生も政治も案外単純浅薄なもんですよ。もっとも、いつでも死ねる気でなくては、そういう心境にはなれませんがね。生きたいという欲が、全て物事を複雑怪奇に見せてしまうんです。」
彼は確かに頭が切れる。しかし大使に向かってこの一言ですからね・・、困った主人公です。死を恐れなくなると行動も大胆になるのは想像つきますが、すべてを悟ったかのような言い方を時々する羽仁男。ですが物語のラストは、こんな偉そうなことを言った本人とは思えないほど、情けないヤツになってしまうのです。
4、不幸な人間とは?
「人の命を買う人間、しかもそれを自分のために使おうという人間ほど、不幸な人間はないと思っている。」
自分はいずれ死ぬ、という見当ハズレな妄想に取りつかれた女と羽仁男は同棲していましたが、その女が「羽仁男に命を売る」というので、諭すために言った一言。
自分は不幸じゃないということと、買う側ではないということを言いたかったのだと思うけど、自殺未遂をして自分の命を他人に委ねるほど愚かで不幸な人間は居ませんよね。
5、人間のクズ
「犯人になるのは命を買って悪用しようとした人間のほうだ。命を売るのは人間のクズだ。それだけだよ。」
羽仁男と刑事のやり取りです。羽仁男は何とかして警察に保護して欲しいと思い、逮捕してくださいと懇願しますが、上記のようにあしらわれてしまいます。
人を見下し、悟ったような気でいた主人公。命なんて惜しくないと思っていた時期は最強でしたが、「生きたい」と思うようになった彼の姿は「情けない」の一言です。
座り込み、涙を流しながら星空を見上げる主人公。滲んで1つの塊になった星たちを見て彼は何を思ったのでしょうか。
6、名言集のおまけ
これはセリフではありませんが、三島由紀夫の比喩があまりにも素晴らしかったのでご紹介します。
老人が年下の妻を表現した時のセリフ(大人向けです)
胸がこういうふうに、両側へ、仲が悪い2匹の鳩のようにソッポを向き合っている。足がまたいい。神経質に細すぎる病的な足が流行りのようだが、彼女の足は豊かなモモからかすかにかすかに足首のほうへ細まってゆく具合がなんともいえない。尻の格好も、モグラが持ち上げた春の土のような、ふくよかないい形だ。
女性の肉体美を、こんな例え方があるのかと感心しますが、「2匹の鳩がそっぽを向く」という表現は、ついつい想像してしまいました(笑)
素晴らしい表現力ですね。