アンソニー・ホプキンス主演映画「日の名残り」のあらすじと感想

1994年3月に日本で公開された今作。

執事という仕事に誇りを持ち、人生を捧げる男の物語なんだけど、主人公を演じるのがハンニバル・レクターで有名なアンソニー・ホプキンスなので、屋敷で殺人事件が起きてしまうのではとバカな想像をしながら序盤は観ていました(笑)

彼の真顔は怖いですからね・・・。

でも、そんな先入観は徐々に薄れていき、全てを犠牲にして主人に仕える男性の姿がそこにありました。使用人の女性を想いながらも表には出さないという徹底した仕事人間のお話・・・ラブロマンスとして観れば、とても悲しい悲しい物語なのです。

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もくじ (文字クリックでジャンプ出来ます)

映画のあらすじについて

ダーリントン卿の屋敷で執事として働くスティーブンス。

女中の責任者として雇い入れたミス・ケントンと仕事に対する考えで最初は少しだけ衝突するけれど、徐々にお互いを理解し合い、彼女の優しさに触れることで、お互いに惹かれ合う中に。スティーブンスは思いを伝えることはしませんが・・・。

ケントンから積極的なアプローチがありますが、スティーブンスは仕事場でのラブロマンスは御法度と常々話していた通り、自身も恋愛感情を押し殺していました。

他の男性から求婚されて迷っていると言ったケントンに対しても、とくに言うことはなく、結婚を決めて仕事を辞めた彼女を暖かく送り出した。

使用人が数多く働くダーリントン卿の下で働いていた時代に、そうしたケントンとの関係をずっと心残りだったスティーブンスは現在の主人に休暇を貰い、彼女が住んでいる英国西部にドライブに出かける。

と言うのも、彼女から手紙が届き、もう一度そちらで働きたいと書いてあったのです。

人手不足だったこともあり、休暇ついでに彼女と再開し、再雇用について話をしようとしたけど、孫が生まれるからやっぱり働けないと彼女は言う。

20年ぶりの再開で、ケントンは仕事を辞めた本当の理由をスティーブンスに打ち明ける。

結婚は勢いで、あなたを困らせたかったからだと彼女は言う・・。彼も好意を抱いていたと思うけど、決して彼女に自身の感情を打ち明けることは無かったので、悔しかったのでしょう。

彼女とまた一緒に仕事が出来ると思っていたけど、断られて、1人で屋敷に戻るスティーブンス。

20年前、全盛期だったダーリントンホールで慌ただしく仕事をしながら、ケントンとの思い出をそっと胸に仕舞い、いつものように仕事を淡々とこなす彼。これからもずっと、執事として働ける間は、彼はこの屋敷から外に出ることはないでしょう。

ラストシーンは屋敷に迷い込んだハトを主人が窓から逃してやりますが、まさにスティーブンスと対照的な演出で幕を閉じました。

 

「日の名残り」の感想

職場にプライベートを持ち込まないという考えはよくあるけど、主人公ほど徹底した人はいないでしょう。

自身の父親が亡くなった時も、客人のことを最優先に考え、常に仕事のことを考えていたスティーブンス。ほんの僅かなプライベートタイムでは自室で葉巻をくゆらせてスコッチを飲むのが唯一の楽しみ。

そんなプライベートルームにズカズカと入ってくるケントンを警戒していましたが、いつのまにか彼女に惹かれていることに気づく。

とにかく口数が少ないので、主人公の感情表現は難しかったと思いますが、さすがアンソニー・ホプキンスです。

 

彼女の後ろ姿を見つめる彼の表情は、愛しい人を見つめる男の顔です。

しかし、ケントンがアプローチしても、それに答えることはなく、時には冷たい態度で接してしまうので、業を煮やした彼女が怒って出ていってしまうのも無理はないでしょう。

↑ここまで急接近しているのに・・・、スティーブンスが部屋を出ていってしまうシーンは悲しかった。

そんなケントンを演じたのがラブ・アクチュアリーでアラン・リックマンの夫人役で出演したエマ・トンプソンです。

この映画で、何度彼女の悲しい顔をみることか・・、それが結構辛いんです。アカデミー主演女優賞にノミネートされてますが、涙を流す彼女の演技があるからこそ、この作品が生きているといっても過言ではありません。

主人公は彼女が辞めた後、ずっと後悔していたのでしょうね。彼のそうした想いが演出で伝わりますが、職場恋愛禁止と使用人に指導している身として自身が一線を越えることはない、とそう心に決めていたのでしょう。

彼は決して恋愛に興味があるわけではなく、感傷的な恋愛小説を読むくらいですから、むしろラブロマンスに憧れていたかもしれません。

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しかし、今は亡き父親がそうであったように、執事という仕事に誇りと情熱を持っていた彼は

「執事が真に満足できるのは雇い主にすべてを捧げて仕えられた時」

という事を語っていたのが印象的。恋愛に発展しないのも無理はないですね。

20年ぶりの再開を喜びあい、しかし永遠の別れとなってしまった二人の切ない悲しい恋物語。

時代背景は第2次大戦前で、主人のダーリントン卿は平和を願いドイツの支援を行っていたが、結果的にナチス・ドイツの裏工作に手を貸してしまったことになり、世間では反逆者として汚名をきせられ、そのまま亡くなってしまった。

現在は政界を引退したアメリカ人のルイスという人がダーリントンホールの主人で、彼が「骨休みに旅行でもどうか」と言われたことで、20年前の記憶が蘇り、回想シーンへと繋がっていく。

終始落ち着いたトーンでストーリーが進んでいくので人によってはつまらないと思う人もいるかもしれません。私も最初はそうでしたが(笑)、気がつけばアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの演技に引き込まれていました。

ちょっと悲しいラブロマンスですが、1人の男性の生き様を描いた作品でもあり、役者も素晴らしいので一見の価値アリです。