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「命売ります」の結末は?意外と面白い展開に・・
倉本家の離れを去った後、旅館やホテルを転々としていたのは誰かに追われている気がしていたが、それは確信へと変わっていく。
街を歩いていた時にチクリと脚に痛みが走り、調べてみると小さな発信機が埋め込まれていたのだ。羽仁男は結局捕まってしまい、車で拉致られ、とある地下室に連行されてしまった。
では一体誰が羽仁男を監視し追っていたのか?
実は羽仁男の「命」を買っていた依頼人のほとんどは犯罪組織の人間だった。羽仁男が「売ります」という広告を出した時、警察のおとり捜査なのでは?と組織は考えていた。
第1章で登場したマフィアのボスは羽仁男を刑事だと思いこんでいるのだ。以前から組織は警察にマークされていることは把握しており、今回もおとり捜査の一環だと思いこんでいる。
第1章で登場した老人、そして殺されたるり子(組織のことをべらべら喋るので殺されたらしい)、図書係の女も組織の一員だった。第2章に関してはボスは羽仁男を始末する予定だったのに、予想外の展開に驚いたに違いない。
しかし少年と吸血鬼の母親、大使館、玲子は組織とは関係がない。組織のボスは吸血鬼の女に殺されるのを期待したが羽仁男は運良く生きながらえ、大使館の一件では見事な仕事ぶりを発揮し、改めて刑事であると確信したそうだ。
ただ、アパートを引き払い、玲子と同棲している時は羽仁男を完全に見失い、困っているところを偶然にも公園で老人と再会したので発見出来たのだ。
ちなみに玲子が写真を持っていたのは、組織が羽仁男を捜索するために写真をばら撒いていたから。
さて、組織として知りたいのは警察がどの程度自分たちのことを把握しているか、だ。もちろん羽仁男は警察ではないので、尋問しても何も出てこない。
結果、この地下室で羽仁男は殺される、ということになる。
しかし、身の危険を感じていた羽仁男は時限爆弾モドキをこしらえていた。木箱にストップウォッチを忍ばせて、ボタンだけが押せるようにしておいたのだ。
殺されるくらいならお前たち全員を道連れにしてやる。このハッタリがなぜか上手く行き、ボスとその一味は地下室から一目散に逃げて、そのスキに羽仁男も逃げ出すことに成功した。
羽仁男は警察署に逃げ込み「保護してください」と懇願したが、あまり真剣に取り合ってもらえず、追い出されてしまった。
警察署の前の階段で座り込み、今にも泣き出しそうな羽仁男の姿がそこにあった・・・。 完。
感想
主人公は第一線で活躍するコピーライター・・のはずですが、突然自殺しようと考え、そして失敗に終わる。
彼は社会の仕組みを知った時に、自分はその一部になるのはウンザリと感じたわけですが、その社会の仕組みを彼は「ゴキブリ」と例えていました。
いわゆる自分は上空から地上を眺める神のように、地上でうごめく人間をそのように例えたのでしょう。なので玲子との生活は子供も生まれて、普通の一般的な生活になりつつあったので、慌てて逃げ出してしまったのです。
大使館の依頼では、彼の頭の良さと冷静な判断が印象的でしたが、大使に向かって「物事を難しく考えすぎですよ」と20代の若造が偉そうに言っているところをみると、彼の傲慢さが垣間見れます。
命はもう惜しくない。社会から一歩抜け出て、行動も大胆になりましたが、依頼人たちと関わることで、生きたいと思うようになった。
最後の刑事とのやり取りが印象的です。自分の命を売るようなヤツは人間のクズだと刑事に言われて、それでも保護してくださいと懇願する主人公は、ゴキブリと言い放った傲慢で大胆な男ではなくなっています。
そう言えば、数人の女性と関係を持つ主人公のモテっぷりは、まるで村上春樹の作品に登場する主人公のようですね。
どちらにしても「自殺」「命」をテーマにした作品なので著者である三島由紀夫のことをどうしても頭から離れません。人の命とか人生に対して、彼はどんな考え方を持っているのか、主人公の羽仁男を通じて著者の生に対する考え方を垣間見れるのかどうかわかりませんが、初めて読む彼の作品としてはいいかもしれませんね。
エンタメ系の小説なので、まさにドラマ化にふさわしい作品です。