やっぱり爽快な結末!原作小説「陸王」のあらすじ(ネタバレあり)

2017年10月クールにTBS系で放送されることになった今作。

私が大好きな池井戸潤氏の作品が原作で、再び男たち(女性もいますw)の熱き戦いが始まります。100年の歴史がある老舗足袋メーカーが畑違いのスポーツシューズに参入。大手の嫌がらせ、銀行の貸し渋りなど、お馴染みの展開でハラハラ・ドキドキなストーリー。経営危機を乗り越えて、100年ののれんを守りきることが出来るのか?

小説を読んでみましたので内容をご紹介したいと思います。

Sponsored Link

簡単なあらすじ

埼玉県行田市にある足袋メーカー「こはぜ屋」。創業1913年、100年ずっと変わること無く足袋製造を生業にしてきた老舗。従業員数27人でほそぼそと経営してきたが、和装品が衰退の一途をたどる中、主要取引先の一つだった百貨店の売り場縮小で収益減となってしまった。

こはぜ屋の社長・宮沢紘一は100年ののれんを守るため、新規事業としてスポーツシューズの開発に乗り出すが、そう簡単に事は運ばない。シューズのコンセプトは決まったが、素材探しや運転資金の調達に奔走する。

その中で、こはぜ屋に協力するものもいれば、アウトドアの大手・アトランティスのように、汚いやり方で邪魔をしてくる企業も存在する。荒れ狂う濁流の上を細いロープで綱渡りするかのごとく、新しいことに挑戦する「こはぜ屋」。

大切な製造設備の故障で本格的な経営危機に陥ったとき、彼らは一体どのように乗り切ったのか?そんなお話しです。

この物語は3つのストーリーが同時に展開される。実業団に所属するランナーの挫折・復帰・完全復活、そして社長・宮沢の息子の成長。そしてメインテーマである「こはぜ屋」の奮闘。関係がないと言えば無いですが、この3つのストーリーが同時進行しながら時には交差し、結果的にお互いの成長の手助けをする心温まる物語に仕上がっています。

 

もっと詳しく「陸王」のあらすじ※ネタバレあり

※個性豊かな登場人物と相関図はこちらでまとめました

商品開発のきっかけ

毎月資金繰りに頭を抱える「こはぜ屋」の社長・宮沢紘一。足袋の売上は横ばいか下がるのみで上がることは決して無い。銀行の担当者・坂本太郎からは新規事業を考えてみては?と言われたものの、なにも浮かばなかったが、スポーツ用品店に立ち寄った時に宮沢はビブラム社のファイブフィンガーズに目が止まる。

※上図がファイブフィンガーズ。実在するシューズです。

裸足感覚で走れる靴か・・、それなら地下足袋に似ているな、と感じた宮沢は「足袋」と「走り」を結びつけることが出来ないか、かつてマラソン足袋と言うものがあったが、それを現代風によみがえらせることは出来ないか、そんな輪郭はハッキリとしないが新たな商品開発に挑もうとする彼だった。

 

陸王のコンセプトと試作品第1号の完成

昔、こはぜ屋でマラソン足袋を製造していたが、世の流れとともに消えていった商品の一つでもあった。社内に残っていた貴重なマラソン足袋を見てみると「りくおう」と商品名がしっかりと施されていたので、今回開発する新商品の名に決定した。

コンセプトは裸足感覚で走れて、怪我しにくいミッドフット走行を実現するシューズ。足袋ならではのフィット感も全面に推したい。もちろん軽量であることが求められるが、商品開発を勧めていく上で、ソール素材の選定など一番の難関になる事をこの時点ではまだ誰も知らない。

 

初めて売れた!教育現場で採用が決定

中高一貫校の名門として知られる私立学校から商品の問い合わせがあり、コンペに参加することが出来たが大手スポーツメーカー・アトランティスに破負けてしまった。

しかしその学校の先生が別の学校に「こはぜ屋」の事を紹介してくれたらしく、教育現場で正式に採用されることが決定した。数は少ないが、こうした地道な努力が収益の拡大に繋がっていく。小さいけど大きな一歩だった。

 

とある実業団ランナーの話

ダイワ食品に所属するランナー・茂木裕人は学生時代に箱根5区を走り、ライバルの毛塚とデットヒートを繰り広げた将来有望の選手だったが、足の故障で現在は治療に専念している。毛塚が活躍する度に気落ちするが、まだ諦めていない彼は、表舞台にかならず立つという強い意思で独自のメニューをこなしている。

茂木のスポンサー、というよりもダイワ食品のスポンサーとして出入りしているのが、あのコンペで負けてしまったアトランティス。茂木が故障したことで、スポンサーの打ち切りを命じたアトランティスの部長・小原賢治。会社の収益のみを考える、一言で言えばイヤなヤツである。そんな小原の下で働くのが選手のサポートをする村野尊彦。選手のことを誰よりも熟知しており、選手からの信頼も厚い。

しかし、小原の命令で契約を打ち切られてしまった茂木は、この先どのシューズを履いて大会に挑めばよいのか。彼の話はまた後ほど・・・。

 

新しいソールの誕生

学校で子供たちが走り回る程度なら良いが、アスリートが履くとなると耐久性に問題が出てくる。

こはぜ屋の主要取引先銀行・埼玉中央銀行の担当だった坂本からソール(靴底)の素材になるかもしれない会社があるとのこと。残念ながら、その会社は倒産していたが社長・飯山晴之と連絡を取ることが出来て、ソールの素材となるシルクレイの特許使用許可を願い出たが5千万という法外な金額を提示され初日は断念。

※シルクレイとは飯山が考えた造語でシルクとクレイを合わせた言葉。天然素材の繭から加工したものでゴムより弾力が硬いが軽量で耐久性に優れており、ソールに最適な素材。(架空の物です)

しかし、こはぜ屋の現状を知ってもらうため、会社に来てもらい、新商品開発の熱意を伝える。飯山は口は悪いが、根は義理堅く技術屋なので新しい商品を一から作り上げるという、こはぜ屋の試みに関心を示した。

老舗の足袋業者だが吹けば飛ぶよな小さな会社。そんな会社が起死回生を狙うべく挑戦しようとしている。しかも「陸王」の可能性は未知だが面白そうだ。

飯山は特許使用料はいらないから代わりにプロジェクトに参加することを条件とした。3年という期限付きでシルクレイの独占権を確保したこはぜ屋。これでどこにも負けないランニングシューズを作ることが出来る、と意気込んでいたが、そう簡単には事は運ばなかった。

とりあえず飯山を技術顧問として迎えることになったが、設備を新設するのに8千万掛かるという。しかし飯山が自分で作ったという設備を提供してくれるというので、費用としては抑えることが出来るが、レンタル料はしっかりと貰うとのこと。

飯山の下には宮沢社長の息子・大地を置き、二人でソール開発に挑むが、これが上手く行かない。どうすれば強度を調整することが出来るのか全くわからないのだ。

出口の見えない試行錯誤に疲労も限界に来た頃、飯山はようやく硬さを調整するポイントに気づくことができた。それは科学的根拠ではなく、経験からくる「勘」だった。

 

心強いもう一人のアドバイザー

アトランティスの村野尊彦は選手のサポート業を行う現場主義のシューフィッター。そんな彼が上司の小原と衝突してアトランティスを退職することになってしまった。もちろん上司の小原に問題が有ったわけだが。

※シューフィッターとは選手の足に合った最適なシューズを提供する専門家。

そんな村野が新規事業のアドバイザーとしてこはぜ屋に協力してくれるという。もちろん茂木選手からの信頼も厚く、監督とも顔なじみなので、陸王のアピールもしやすい。こはぜ屋が以前、監督に掛け合ったが、ほぼ門前払いを状態だったので心強い味方だ。

ソールはシルクレイに変更し、軽量化と耐久性を向上させ、宮沢の夢だった「茂木選手に履いてもらう」ということが現実のものとなった。彼からのフィードバックで更なる改良を重ね、商品化へと勧めていく。

 

経理屋の富島が反対する理由

経理担当の富島玄三。勤続40年のベテラン経理で、言わばこはぜ屋の番頭と言ってもいい。先代の社長をよく知っている社員の一人。そんな彼が新規事業に反対する理由が一つある。

実は先代の社長も新規事業を立ち上げた経験があり、銀行から資金を借り入れて失敗に終わり経営が傾きかけた過去がある。そんな時、先代の社長は、どうして止めてくれなかったのかと言ったという。だから自分は今後、経理を任されている以上、新しい事業に手を出す時は常に反対の立場で居たいと考えている。

初めて聞かされた宮沢は富島の立場に理解を示しながらも、今回のマラソンシューズ開発は絶対に失敗しないという自信と情熱があり、もう後には引けないという思いがあった。

 

2つの危機をどう乗り切ったのか?

シューズのアッパー部分(上の部分)に最適な素材として織物メーカー・タチバナラッセルと契約したが、アトランティスの嫌がらせで織物メーカーが離反してしまった。それはまだ良い。問題はシルクレイを製造する設備がとうとう復旧できないほどの致命的なダメージを受けてしまったのだ。もともと飯山が制作した試作品を作るための機械。量産に対応できなくなるのは予想していたが・・・。

タチバナラッセルの替わりとなる織物メーカーは、技術力に定評のあるメーカーと無事契約をすることが出来た。しかしシルクレイの製造に必要な設備を整えるには1億円掛かるという。さすがに銀行もこの額は貸してくれない。

そこで意外な提案を持ってきたのは元銀行員・坂本だった。彼は別の支店に転勤後、銀行の体質が自分の考えと合わないということで、投資会社に就職。そんな彼が提案してきたのは買収だった。

彼が言うには大手資本の傘下に入れば

・資本問題の解決
・シルクレイの製造再開
・信用が着く
・雇用の安定

不安要素はあるが、メリットは大きい。こはぜ屋に興味を持った珍しい会社はアメリカに本社を構えるアパレルメーカー・フェリックス。社長は日本人で御園丈治という男。

彼はもちろん、こはぜ屋に興味を持ったのではなく、シルクレイの製造技術だ。初めは同じ素材を社内で開発できないかと考えたが、時間と費用が膨大にかかるため断念。直ぐに必要であれば技術を買ったほうが早いということで声を掛けたらしい。

 

買収に乗るべきか?悩む宮沢、しかし冷静な男が一人いた

100年の伝統、のれん。先代から受け継いだ守るべきものはあるが、会社が倒産してしまっては意味がない。買収に応じれば倒産は免れるが、いずれ「こはぜ屋」の主力商品である足袋の製造ができなくなるかもしれない。様々な思いが頭を駆け巡る社長の宮沢だが、シルクレイを提供している飯山が冷静な口調でこう話す。

「あんたはバカだ」

相手が欲しがっているのはシルクレイの製造技術。買収ではなく製品の供給が出来ないか?という交渉が出来るはず。交渉というのは常に立場が対等であり、なにもシルクレイの製造技術を欲しがっているのはフェリックスだけじゃない事を主張すればいい。相手が買収しかダメだ!と言うなら、シルクレイを欲しがっている他の企業と交渉するぞ、と強気で行かないでどうする?と飯山は言いたいのだ。

フェリックスの社長は、「今回の買収の件は無かったことに」と少し感情的になって帰っていったが、その後直ぐに、宮沢の提示した条件でシルクレイ供給ということで決着が付いた。

条件というのは、供給する代わりに設備投資費用の3億円をフェリックスに融資してもらうこと。シルクレイの生産がストップしていたこはぜ屋は、赤字を出してしまったが、フェリックスの援助で運転を再開。更にフェリックスから受注も3年は保証してくれるとのことなので、当面は安泰。

ちなみにフェリックスの社長は当初、特許を持っている飯山に直接交渉を持ちかけたらしいが、飯山が断ったという。幾ら提示してきたかわからないが、結構な額を提示しても動かなかった飯山の義理堅さ。口は悪いが信頼できる人物であることは間違いない。

やっぱりいい!池井戸氏の爽快な結末は次のページです