第1巻:2013年2月23日出版
あらすじ
第1巻は「美しい人」「頭(こうべ)」「薔薇の木の下」の3つの短編を収録。
「美しい人」
正太郎の母親が経営するアパートの住人・水島清美と連絡がつかないという家族からの依頼で部屋を訪れることになった正太郎と櫻子。部屋にあがってみると嵐が来たような荒らされ方で清美は苦しそうな表情で息絶えていた。玄関ドアはチェーンがかかっていたので密室となる。
清美は婚約者がおり、結婚を間近に控えていたけど、その婚約者は清美の妹・好美と不倫関係にあった。その事を知った清美は服毒自殺を図り、死を持って復讐を遂げたのです。残された婚約者も後に自殺してしまったという、とても後味の悪い結末を迎えてしまったのです。
標本士で検死もある程度出来てしまう櫻子によって解明された清美の自殺。正太郎は清美と面識があったので、清楚なイメージとは程遠い、彼女の苦しそうな表情が脳裏に焼き付く悲しい出来事でした。
「頭」
櫻子が買ったというルノーのカングーで北海道の北西部にある増毛町を訪れた二人。海岸で動物の骨を探すために訪れたが、なんと正太郎は人間の骨を見つけてしまった。持ち帰ろうとする櫻子を制止して警察に通報。現代の骨ではないことから事件性はない事がわかって一安心する二人。しかし近くで若いカップルの心中遺体が見つかり、櫻子が現場に駆けつけると、そこにはお互いにロープで縛られた男女の遺体があった。
警察は自殺ということで調べを進めているが櫻子の見解は違うらしい。男性の利き手に結ばれたロープ、そして不自然なもやい結び。第三者が絡んでいると判断した櫻子の推理は見事的中し、後日、真犯人が逮捕され事件解決へと繋がった。
「薔薇の木の下」
バラ園のオーナーで櫻子の許嫁の叔母・千代田薔子(しょうこ)宅で起きたちょっと変わった出来事の話。九条邸に負けないほど立派な邸宅に住んでいる薔子夫人。彼女の夫は半年前に事故で亡くなっており、今回は霊媒師を交えて降霊会を行うという。
夫と交信するのか?。いや、この降霊会は茶番だった。階段から転げ落ちて死んだという薔子の夫。その現場には道内でスーパーのチェーン店を展開する大原会長が居合わせていたが、彼は怖くなって逃げてしまい応急義務を怠った。彼が突き落としたわけじゃないけど、現場に居たのだから疑われることを恐れたのだろう。
しかし、この降霊会では大原が突き落としたと判断した皆が、夫の霊を呼び寄せ、彼が犯人であるかのような展開に持っていく・・・ただし夫人は疑っていない。しかし、そこに居合わせていた九条櫻子。黙って見ているなんてことはしなかった。
このふざけた茶番を見抜き、夫人の夫が実は同性愛者だったこと、そして大原会長とそういった関係だったことも明らかに。そして霊媒師として参加していた人物も実は夫人の夫と関係を持っていた神父だった。
神父は大原に自首してほしかったのはもちろん、彼に嫉妬していたから今回の降霊会を開いたのかもしれない。どんな結果であろうと、夫は戻ってこない。夫人は名誉のためにも今回の事は外部に漏らさないように皆に約束をしたのだが・・・。
結局、神父は警察やマスコミに情報を提供。現場に居た大原が書類送検されたことで道内の経済界に激震が走り、関係各社に打撃を与えたことは言うまでもない。夫と大原のただならぬ関係は夫人としてショックだったが、少なからず夫人は大原に世話になったことは事実。そして彼が不祥事を起こせば経済に大きな影響を与えることは予想していた。
だからバラの木の下で行われた降霊会は秘密にしておこうと彼女は言ったのです。ギリシャ神話にも出てくるように、ローマでは昔から薔薇の木の下での出来事は秘密にするという誓いがあったそうです。
感想
1巻では二人がどこで出会ったのか描かれていませんので、非常に気になるところですが、それはまだお預けらしい。二人には親密さがうかがえますが、決して恋愛対象のそれではなく、あくまでも友人。正太郎は多感な時期なのでどうしてもスタイルの良い櫻子さんの体の端々に目がいってしまうようですが、ごく普通の倫理観のある彼は、まさに我々読者が一番共感できるキャラクターなのかもしれない。
そんな彼が「いいな~」と思っていた素敵な女性が変わり果てた姿で発見され、もちろん家族もショックだったと思うけど、彼も家族以上に衝撃を受けたことでしょう。