湊かなえ小説「少女」因縁が面白く、結末が凄かった!整理と感想ネタバレ含みます

女子高生達のクールでホットな夏物語。
映画が公開される前に、原作となる小説を読んでみることに。

最後の最後まで、ハッとする因縁めいた人間関係のつながりに感嘆。いくつかの不幸な過去のトラウマと、混乱した人間関係がもたらすミステリーは、えぇっ!と驚く展開に!

面白かったです。終始、死の臭いがプンプンする物語は、なぜかライトで後味も悪くないんですよね。あらすじを読んだ時点で抱いたイメージよりホットな青春物語で、女子高生たちの活躍が爽快だとさえ感じちゃいました。

では、まず「あらすじ」をおさらいしてから、印象深かったことの整理と感想をガンガン書いていきます!

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映画の原作、小説「少女」あらすじ

「死体を見つけたことがある?」前の学校で親友の自殺を目撃した転校生の告白を聞く、主人公の由紀と敦子。仲たがいをしている二人は、それぞれに「死を見たい」理由を持ち、別々に実行しようとするが…。

老人ホームと小児科病棟ボランティア、人生の終末を感じる二つの舞台で出会った人物達と関わりながら、高校2年生の少女達が夏休みを走り抜ける物語。

大人っぽいけど、子供の残酷さも持ち合わせている年頃なのかな?小説『少女』に登場する、成長途中の可愛くスイートな女子高生の内面はブラック&ビター味。

罪悪感が希薄な少女達の不安定さが生む心の闇が、波紋の様に大きく大きく広がっていきます。

主人公の由紀と敦子、こんな子かなと思ったまとめ

映画では、由紀を本田翼さんが、敦子を山本美月さんが演じます。

由紀

要領が良く常識があり良い子に見えるけど、かなり腹黒いイメージ。貸し借りを作るのが嫌だが、人を利用することに対して罪悪感は無いみたい。負けず嫌いで、自信家なのかなと感じました。トラウマのせいで、無表情だが強い負の怒りが心の中で爆発することも多々あり、けっこう攻撃的。

敦子

運動センスが良いが単純で察しが悪い。子供の頃から小心者だったが、自分の失敗に対する悪口をカゲで言われている事を知り、喪失感を味わって更に臆病になる。自分の痛みを良くも悪くも投影させ、他者に共感しやすいからか、あからさまに悪い事は出来ないタイプなのかなと感じました。

【ネタバレ注意報】整理&感想、自分なりの解説

なぜ、どうして?と思ったことや、印象に残ったことを整理。つまずいたり混乱しながら、あれこれ思考を巡らせてみました。

なぜ、死を見たいと行動までしたのか?二人の心の闇

可愛らしい女子高生が、なぜこんな物騒な発想に至ったのか?

読む前から何か訳があるんだろうなと思っていたけど、映画公式サイトのちょっとした紹介文(イントロダクション)でネタバレされていました。「本当の死を理解できたら、闇から解放されるのではないか」と。

では、ここで二人の闇について整理してみます。

敦子の闇

得意だった剣道での大失態、それに関して親しい仲間だと思っていた者達からの悪口を知ってしまったこと、更に関連して高校進学への夢が壊れたこと。でも、最大の闇は「大好きな由紀に認めて貰えない(頼られない)こと」なのかなと思いました。

唯一得意と言えそうな剣道をやめてしまったことで自信ゲージがゼロになっちゃったみたいなので、経験値が凄そうな「死を理解できたら由紀に認めて貰える」作戦が出来ると飛び付いたんだろうな。文句を言いながらも由紀のことばかり考えてるものね。

由紀の闇

敦子に対して失望している様に見える由紀は、世の全てのことに失望している気がします。特に、大人に対して。頼る人が誰もいない状態だから、強がって生きてるイメージを持ちました。

原因は、認知症の祖母から受ける理不尽な暴力に対する怒りから始まり、それに関した母との信頼関係の崩壊、救世主と思った敦子の悪い変化、盗作されたせいで敦子との間に深い亀裂が固定。

心の黒いモヤモヤした闇の解消法が見付からない由紀は、その代用として「もっと衝撃的で自分より不幸な人を見る」ことを思い付いたのでは?もっと簡単な解消法は、不幸自慢をして心のガス抜きをする事かなと思うのだけど、由紀の場合は美意識や負けん気が邪魔しちゃうように感じました。

敦子より由紀のほうが、誰にも分かって貰えないと不満な気持ちが強いのかなと思えます。

頼りたいけど頼る人が見付からない由紀と、今は自信を喪失しているけど頼って欲しい敦子と解釈すると、何だかんだ言って相性が良さそうな二人ですね。

紫織の話が、どうして自慢気に聞こえたんだろう?

転校生の紫織が、親しい友達の死体を目撃したことを主人公二人にこっそり打ち明けるシーン。由紀はそれが自慢気に聞こえ、敦子はそう感じなかった。この違いについて考えてみました。

敦子は、由紀に意識が向いていたからかなと思うんですよね。由紀の気を引いた紫織と同じ様な体験をしたいけど、ぶっちゃけ紫織のことはどうでも良いと思ってそうだなぁ。
対して、うらやましくて自慢気に聞こえた由紀。紫織が特別の体験をして、自分の心を動かして惹き付ける物語を語ったから?文章は雄弁だけど、口頭で語るのが苦手だから憧れたのかしら。それとも、単なる負けず嫌い?

ん?そういえば、紫織はどうして二人に打ち明けたのかな。

(物語の進行のため…という解釈はタンスにしまって)さかのぼって調べてみると、その時は自分に不利なこと(痴漢冤罪で儲けるエピソード)を省いて語っていますね。自分の罪悪感ストレスを減らそうと、心のガス抜きのために二人を利用したのかしら。

藤岡さん

中心人物でもないのに名前だけは登場回数の多いフジオカ(藤岡)さんは、由紀の祖母の昔の教え子。女性です。

おばあさんの藤岡さんへの執着っぷりが印象深くて、藤岡さんの差し入れたモチで喉を詰まらせた事故は故意みたいに思えちゃいますが、認知症のせいで性格が変わってキツくなっているなら、藤岡さんはそこまで恨んでない気がします。

彼女の名前がキーワードの一つとして印象的に使われているトリックのかけらだと感じました。重要人物ではないはず。

タッチー&昴

由紀が病院ボランティアで出会う、入院中の2人。こんなに重要人物になるとは、ビックリ!

由紀の体験物語を素晴らしいものに仕上げるためのターゲットでしたが、まさかのどんでん返し。利用しようとして利用されちゃう由紀は、まだまだ井の中の蛙だったということかな。(詳しく語ると未読の方には面白くないので、これだけにしておきます。)

色々終わった後の敦子の名言「人間、体を動かさないと、ろくなことを考えない」は自分の事を表したのかもしれないけど、私の脳裏にはタッチー&昴の二人が思い浮かびました…。

因果応報とは

人はよい行いをすればよい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるということ。現在では悪いほうに用いられることが多い。「因」は因縁の意で、原因のこと。

引用元:goo辞書より抜粋

人の縁と因果応報

ホント世間は狭いよね、どこかで何かがつながっています。私の現実でも不思議と「世間は狭いなぁ」感じる、人の縁の不思議。

夏休み、由紀と敦子は連絡を一切取らずに校外で別行動をするが、ふたりの縁はかなり濃厚。

また、この二人の縁だけでは無く、小説のあちこちに散りばめられた因縁が結び付き合い、絡まり、いろいろ巻き込みながら由紀と敦子の世界が膨張していくところが読み応えあり!

敦子と由紀の祖母との接近遭遇や、由紀と敦子の知り合い(おっさん)の接近遭遇は、ほんの序の口。教師、闇サイト、図書館彼氏、病院の子供達、変態おやじなどなど、すべてが深く絡まってくるとは!

「だよね、やっぱりこれも」「えぇっあれも!?」「スゲー、新しい縁がまだ出てくるのかぁ」と思うほど連発する縁の多さに、「縁を発見するために早く読み進みたい」気持ちになっちゃうくらい楽しんじゃいました。

作者に上手く誘導される発見とはいえ、楽しいですよね。

由紀の彼氏が大事に持っていた「紙吹雪」の答えも、凄かったなぁ~!巡り巡って所有者の元に返ってくるとは予想できませんよ。

また、由紀と敦子の遠ざかった距離感がヤバイ所で急に近付いて、また遠のいて、すれ違って、急接近して…の繰り返しで、ちょびっとハラハラしちゃう面白い構成でした。

鏡のような世界で、自分をかえりみる

敦子が通う老人ホームで働く職員のひとり、おっさん。無愛想で冴えなくて、要領が悪くて、運が悪い。そんなおっさんの言動を読んでいると、敦子に似てるなと感じました。

また、自分が嫌われている悪口を言われていると思い込んで幻聴が聞こえる老人ホームのおばあさんも、敦子と重なります。

まるで鏡のような他の世界(日常とは違う空間)で、自分の世界の大切なことに気付く敦子にとって、この年の夏休みはとても有意義なものになりました。このあたりの成長物語は、私が小説に感じた明るい印象のエッセンスのひとつです。

由紀の鏡は、図書館デートの彼氏かなと思いました。ブラックなところに色々と共通点を感じたんです(苦笑)。

おっさんを狙うのは誰?答えは衝撃的!

おっさんのおかげで知りたかった由紀の気持ちを確認出来て、重い悩みの原因を解消出来た敦子。やっと夜が明けて、綱渡りをしていた自分を守ること以外の…おっさんや、由紀のことが視界に入る様になり、一安心。良かったね!

敦子を明るいところに導いた重要人物のおっさんエピソードは、これだけで終わらず、ここからが本番。

なぜか命を狙われる、おっさん。

恋心なのか、親近感なのか、必死でおっさんを守ろうとする敦子。冷静に仕返しする極悪イメージの由紀を恐れながら、一人で防衛ミステリーを繰り広げる様子が可愛くて愉快でした。

おっさんを狙う誰かから守ろうと頑張る敦子の姿以外にも、ちょとしたハラハラ感、誰が狙っていたのか分かる所まで、この一冊の中で最大のクライマックスシーンだと感じました。

え!まさか、あの人物が!?
と、まったく予想してなかったところを作者に突かれて、そういう意味で衝撃的でした。一瞬、ポカーンとなっちゃいましたよ(苦笑)。

敦子の解放感と同調した私が「おっさんを狙う人なんかいないんじゃないの?」と思った矢先に、ミステリー炸裂ですからね。刺激的!

そして更に、この驚きだけでは終わらず…。最後の最後まで、ハッとする因縁めいた人間関係のつながりを楽しめました。

ヨルの綱渡り

おっさんも読んでいた、素人の高校生・由紀が書いたオリジナル小説『ヨルの綱渡り』。狙って書いてないからか、分かって欲しいと思って書いたからか、想いが詰まっていて共感度が高く、おっさんの評価も高い作品に仕上がっています。

もしも、「ヨルの綱渡り」が「ヤミの綱渡り」だったら?

夜は、いつか明けて朝が来る可能性があるけど、闇は朝が来ても明るくならなそう。闇ではなく、夜を選んだあたりに友情愛を感じました。由紀が死に対峙した時に嫌な世界から救ってくれた敦子に、せいいっぱいの恩返しをしたかったのかな。

誰の遺書?めぐりめぐった因縁の末路

小説の始め、敦子と由紀の物語が始まる前に登場する「遺書」って、誰が書いたものなのか?

私の場合、小説全部を最後まで読まないと分かりませんでした。(しかも、あとがきも必要でした。)

小説の始めの、そこだけ読んだ時は敦子が書いた様にも思えたり、もっと読み進めてみるとセーラが書いたようにも思えちゃって。

一見分からない所がミステリアスで秀逸。
分からないからこそ、そもそも誰のせいで遺書を書く羽目になるのかしら?と登場キャラに対して疑心暗鬼になっちゃいます。

そして最後まで読むと…あれれ?
ラストの締めに「遺書<後>」が出て来たぞ!
ここで思い出して小説の開始ページに戻ってみて再確認すると、そこには確かに「遺書<前>」と明記。あれは途中だったんですね。

それまでの主人公二人の言動が波紋の様にゆっくりと広がり、まさかの紫織に因果応報しちゃうとは…。敦子との仲が回復した由紀の物欲の強さと腹黒さは要らないんじゃないの?っと思ってたら、最後ですべてがつながり、伏線が回収完了!

実は冒頭がラストの一部だなんて…スゴイなぁ。

また、冒頭で読んでたのは敦子かな?という答えは、あとがきにありました。小説ならではの仕掛けでしたが、この仕掛けが映像化される時にはどう表現されるのか興味があるなぁ。

ミステリー小説ならではの残酷さ

人々や物事のつながりに気付きかけた由紀と、目の前のことに夢中でつながりに本気で気付いていないのかもしれない敦子。自分への影響には過敏になっても、他人への影響は見過ごしがち。

最後まで読んで、冒頭に戻ってみて、紫織の遺書を読んだ敦子の「どうしてこんなことになってしまったんだろう…」という一文を見直してみると、敦子と由紀のせいもあるよっと突っ込まずにはいられない私。この小説『少女』の世界では、自分の言動が他人の命を失わせるほどの影響力を持ってしまうのが恐ろしいですね。

能天気な敦子は、セーラと教師(後追い)それぞれの命を奪うきっかけになってしまったのかも。

策略家の由紀は、祖母や教師への報復に加えて、変態オヤジを匿名で地獄に落とすことに成功。たぶん紫織の父ですよね。

由紀に因果応報と言われそうな紫織は、嘘の痴漢告発で冤罪逮捕された、おっさん家族の人生をぶっ壊したように読み取れます。

では今後、由紀と敦子にどんな因果応報が巡ってくるのか?おそろしや。

地獄で苦しむ絵本

自分を不幸にした祖母の他界」を待ち望んでいた由紀は、病院ボランティアの出来事の中で「死は究極の罰ではない」のではと思い至りました。子供が「親より先に他界した罪」で地獄で苦しむ絵本によると、罪があったから死んだのではなく、死んだこと自体が罪と解釈できるから。

なんか、これを機に「因果応報、自分に害をなすものは生き地獄で苦しめてやる路線」に変えたんじゃないかと思っちゃいました。

そして変態オヤジは生き地獄行き…?戦慄~。

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あれこれ考えを巡らせていると、読んだ直後に思ったこととは変わってきました。

この後、じっくり寝かせた感想も書いてみましたので、次の2ページ目もぜひどうぞ!