映画「天空の蜂」原作の感想ネタバレあり「計算尽くされたストーリーに脱帽」

9月12日に公開となるこの映画、
さすが東野圭吾さんともいうべき壮大なスケールで描かれるストーリーは読み応えありで
600ページ超えの文庫本も2日ぐらいで読めました。

「手に汗握る」とはこの事なんでしょうね、
久しぶりに本をもつ手がうっすらと汗をかいてしまいました。
それだけ読者を引きつける彼の文章、しかも読みやすいときていますからね。
それでは簡単なあらすじや感想をご紹介です。
ネタバレありますのでご注意ください。

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あらすじ

防衛庁に納入を控えた大型ヘリコプターが何者かの手によって盗み出され
あろうことか原発の上空で移動を止めホバーリングを続けている。

犯人の要求は

・現在稼働中の原発を使用不能にすること
・建設中の原発は建設を中止すること
・上記作業を全国ネットで中継すること

ということらしい。
但しヘリの下にある原発「新陽」は止めてはいけない、停止すれば即座にヘリを落とすとのこと。

ヘリの中には爆弾が積まれているといい、犯人の要求を飲まなければ
新陽付近は大惨事になる。

しかもこれだけじゃない。
この原発のはるか上空でホバーリングを続けている大型ヘリの中に小さな子供が誤って乗ってしまったのだ。

・子供を助けなければいけない
・ヘリが落ちても被害は最小限に抑えたい

はたしてこの希望は叶うのだろうか。
というのがこの物語のあらすじです。

爆弾を積んだ大型ヘリが原発の上空にいるという難題だけでも
1つの物語が十分作れそうな気がしますが更に東野圭吾さんは
子供を登場させることでより一層緊迫した状況を作り出しています。

ちなみに今回登場した大型ヘリの大きさは、
同体長33.7メートル、ローター経32メートルというトンデモナイ化け物ヘリなんです。
そんなものが原発の上空でホバーリングをしていたら・・・、
考えただけで恐いですね。

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「天空の蜂」の感想、絶体絶命から救われる結末(ネタバレあり)

作者のこれまでの作品を見てみると、タイトルの付け方はさほど難し考えず、サラリと決めているのがわかります。
「放課後」「秘密」「白夜行」「片思い」「手紙」などわかりやすいタイトルで親しみが持てますが
今作の「天空の蜂」はどうだろうか、作者いわく

今まで書いた作品の中で一番思い入れが強いのはどれかと訊かれれば、これだと答えるだろう

と語っているようにこの作品に掛ける意気込みや思い入れはタイトルの付け方のみを見ても
他の作品とは一線を画する。

更に文庫本のページ数は300~400が東野さんの平均ページ数だけれども
この作品は600ページ超えという約1.5倍以上のボリュームになってしまったのは
それだけ剥ぎ取ることが出来なかったアイデアが散りばめられた作品と言えるでしょう。(白夜行や幻夜など、これよりも長編作品はありますけどね^^;)

さて、物語の内容はどうでしょうか、
前述したように危険な状況に置かれた子供がポイントとなる今作、
「子供」と「爆弾を抱えたヘリ」という2つの難題を突きつけられた政府と犯人との駆け引きやお互いの思惑など
様々な立場の人間の思考をこうも上手く書けるもんだと関心させられます。

そして物語の中盤あたりで子供が無事救出されて、安堵するのもつかの間、
原発への落下に対する対策を航空機の専門家や原発関係者、そして警察がそれぞれぎりぎりの時間まで
思考し奔走する様は想像するだけで胸が一杯になる。

そしてなぜ子供がポイントなのかというと、救出された後は
この単語が消えてしまうのかといえば実はそうではないんです。

ヘリに子供が乗っていたのは犯人も想定外の出来事で、
救出に協力的な態度をみせる。

そんなまだ薄っすらとしかわからない犯人像に、
根っからの凶悪犯ではないことが多少なりとも伺える。

というのも犯人は結婚して男の子がいたんだけど、
残念ながら小学校でいじめにあい自殺という悲しい結末を迎えています。

何故息子が死んだのか、ということを調べていく内に
どうやら自分の仕事が原発に関わっていることが原因であるということがわかり、
全く気づいていやれなかった不甲斐なさといたたまれない気持ちでいっぱいだったと思う。

当然、原発に反対する人間が犯行に及んだという考えが自然なわけで
彼のように内部の人間が犯人だというのは犯行内容からして考慮しなければいけないけど
何故彼が犯行に及んだのかというプロセスが徐々に明かされていくストーリー展開が実に上手い。

そして犯人はもう一人、
もちろんこちらは反原発を訴える人物だけど、こちらも本人に辿り着くまでの
警察の足取りが実に巧妙。

物語の筋となる3つの要素は

・ヘリの墜落を何としても阻止しようとする人達
・ジワジワと犯人に近づく警察
・徐々に明かされる犯行に及んだ二人の素顔

これが上手く重なりあい、10時間という物凄く限られた時間の中で繰り広げられるわけですから
途中何度興奮したかわかりません(笑)

あ、結末はもちろん悲惨なことにはなりません、
無事に解決したけども「原発」という大きな課題を考えさせられる作品になっていますよ。

やっぱり凄いですね、東野圭吾さん。
はてさて、映画はどうなることやら、この緊張感をどう映像で伝えるのか楽しみです。