「さよならを待つふたりのために」を読んでみました

2015年2月20日に公開される映画「きっと星のせいじゃない」。

またラブストーリーか、と原作小説を手にとって見ると、どうやら単純じゃ無さそう。

死と隣合わせという環境下で強く生きる主人公たちを、しっかりと10代の目線で描かれています。

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原作小説のあらすじ

16歳のヘイゼル・グレイス・ランカスターは、13歳で甲状腺がんとなり、

肺に転移、酸素ボンベが欠かせない生活をおくっていた。

1日の大半をベッドの上で過ごし、同じ本を繰り返し読んで

死について考えていた娘を心配し、母親がサポートグループへ通わせることに。

 

サポートグループと言うのは同じガン患者同士のコミュニケーション広場。

そこで偶然出会ったのが1歳年上の青年オーガスタス・ウォーターズ、通称ガス。

彼は骨肉腫という骨に腫瘍が出来る病気で片方の足は義足。

 

大切な人を傷つけたくないヘイゼルは、一度は拒むも彼への思いは募るばかり。

そんなある日、大好きな本の著者に手紙を何度も送っているけど

一向に返事がないことをガスに話したら、著者の秘書と連絡がとれたという。

 

著者はオランダに住んでるけどぜひ会いたい!

二人はアメリカを出発して、いざ著者のいるオランダへ。

 

著者と対面し得たものは?

そしてオランダで二人の絆は更に深まったのか?

恋も大事だけど常に付きまとう死という言葉を10代の男女はそれぞれどう受けとめて生きているのか。

重いものを背負いながら強く生きる人達の物語です。

 

感想

とにかく主人公の女の子・ヘイゼルの形容の仕方が実に面白い。

 

例えば、幼いころに庭で遊んだ「滑り台付きブランコ」の名前。

使わなくなった物を提供しあうサイトに登録した時のタイトルを

「孤独な小児性愛チックな滑り台つきブランコが子供たちのお尻を探しています」と・・(笑)

たぶん、ジブリ作品「耳を澄ませば」の月島雫も読めば大好きな本になることは間違いなさそうです。

 

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さて、本題の感想ですが・・・、

ヘイゼルは自宅にいることが多いので、読書家でもありますが、

1冊だけやたらお気に入りの本があるんです。

本に登場するガン患者の主人公アンナに共感し、

中途半端で物語のその後が気になるけど文学的な終わり方で締めくくっている部分が大好きだという。

 

「でも登場人物はその後どうなったの?」

ヘイゼルはそんな疑問を解決したいから著者に12通も手紙を書いたし、

ガスと一緒に著者が住んでいる遠い異国の地オランダへ足を運んだのです。

 

このオランダ行きが決まった時の二人のやり取りが心温まるんです。

実はガン患者は財団を通じて一つだけ願いことを叶えることが出来るんだけど、

ヘイゼルは既にテーマパークで夢を叶えてしまい、オランダ行きは経済的に無理だったんです。

でも、オーガスタスが自分の分を使えばいいと、

「でも、君のために使うわけじゃないよ、僕も著者に会ってみたいんだ。」

ガスの夢はヘイゼルと一緒にオランダへ行き、著者に会うことが僕にとっての願いだろうって。

「オーガスタスって最高!」とはしゃぐヘイゼルの顔が思わず目に浮かんだシーンでした。

 

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時には衝突も

意味のある生き方って何?というヘイゼルに対して

そのまま何もせずに終わることが怖い、最後ぐらいは立派に死にたいというガス。

死後の世界は無いと思うヘイゼルは現実的で冷静で夢がないけど、

酸素ボンベを引いて歩くことで精一杯な私の前で言わないで、という感じなのです。

 

ヘイゼルが「自分が死んだあとに悲しむ人は少ない方がいい」と考えているのに対して、

ガスは「生きた証を残したい」と考えているため、

対照的な二人の関わりがうまく会話で表現されていると思います。

 

そう言えばヘイゼルって精神的な強さもあるんです。

ERに運ばれ、痛みの度合いを10段階で答えるとき、

10の痛みを9と答えた彼女。

実は、いつかものすごい痛みが来るために10を取っておいたらしい。

 

恋愛だけじゃなく友情も

オーガスタスはガンで両目を失ったアイザックという親友がいます。

失明したアイザックを見捨てた恋人の車に一緒になって卵を投げつけて楽しんだり、

もしガスがこの世から居なくなったら、例え見えるようになる義眼があってもお断りだと言ったり。

アイザックは、目の摘出手術(ガンを体から取り除く)をした日に、

これから想像も出来ないほど凄いことやヤバイことが起こるぞ!

(失明したけどガンから解放され自由に生きれるから)とガスらしい励ましの言葉が心に響いたようです。

そんな二人の熱い友情もしっかりとこの物語は描かれています。

 

ガン患者とその家族の苦悩

ヘイゼルは優しい子かもしれない。

親が安心するから、とか、親が喜ぶからしていることがいっぱいある。

サポートグループに顔を出すことだってそうかもしれない。

私の前では笑顔で接してくれても、パパが泣いていたり、

ママが「もうママになりたくない」という本音を耳にすると、

「私のせいで・・・。」といたたまれない気持ちなり、お互いに遠慮しあったり

大好きなのに壁が出来てしまったりする。

 

でも、一度衝突する事があって、

ヘイゼルは母親に対して「私が死んだらママをやらなくてすむ。」と言ってしまい、

母親は、

「あなたが死んでも、私があなたのママだってことは変わらないわ。私はママをやめたりしない。」

と諭すと、ヘイゼルは両親に自己を犠牲にする生き方はしてほしくないと訴えます。

でも実はママは福祉大学の学位を取るために勉強中でヘイゼルには黙っていたのです。

 

母親もまたヘイゼルに気を使い、

「あなたが居なくなったことを考えていると思ってほしくなかった」

と。

ヘイゼルはこの時、母親が自分の時間を作ってること、

私が居なくなったら福祉の道に進むことに素直に喜びました。

ここで一気に家族の冷たいわだかまりが溶けて明るくなった瞬間でした。

 

このガン患者を持つ家族の苦悩をリアルに描けたのは

実際に16歳で亡くなった著者の友人エスター・アールとその家族の存在でしょう。

よくある単純な、お涙頂戴的な物語ではなく、ガン患者の声が入っているだろうと思われる

セリフが散りばめられている。特に主人公のヘイゼルが顕著です。

そうした辛いテーマとロマンスの融合を全く新しい視点で書き上げたのではないでしょうか。

評価される一番の理由かと思います。

 

最後に二人の甘い言葉を

ヘイゼル「キレイなものには慣れちゃうものだし」

ガス「俺はまだキミに慣れていない」

顔を赤らめるヘイゼルがなんとも可愛らしく、そして微笑ましい光景です。