第3巻:2013年10月9日出版
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あらすじ
「呪われた男」「お祖母ちゃんのプリン」「託された骨」の3作品が収録されています。「プリン」のお話しは正太郎のお婆ちゃんの心温まるエピソード。特に本編とは関係ないので割愛させていただきます。
「呪われた男」
前巻で登場したお巡りさんの内海が珍しく櫻子に一緒に来てくれないかと依頼するところから始まった今作。実は彼の友人が「死ぬかもしれない」と冗談ではなく、結構深刻な印象だったので、自分ひとりでは不安だということで、以前事件解決へと導いてくれた櫻子にお願いしたのだ。
友人曰く、叔父から譲り受けた絵画が呪われているとか、家系図を見ると男だけ短命なので、自分もそろそろかもしれないという。そして死神のように自分にまとわりつく飼い犬は、自分の死が近いので監視しているのでは?と、かなり神経質になっている。
その飼い犬というのはモフモフとした真っ白く大きな犬種のサモエド犬。確かに大きな犬だが、あんなに愛くるしい表情のワンちゃんが、呪いの犬とは到底思えない。
初めから非科学的な話は全く信じていなかった櫻子は、彼が所持している絵画に注目。年代物の絵画は梅雨時になると、ヒ素が気化して体に悪影響を与えていたのではないかと指摘。その証拠に友人の爪にはミーズ線と呼ばれる線条爪甲白斑症の症状が現れていた。呪いではなく科学的根拠があったということだ。※年代物の絵画全てヒ素が使われているわけではありません。
これで一件落着かと思いきや、実は結末は意外な展開をみせる。友人が1人、自宅から外へ出ていったと思ったら、血を流して倒れていた。どうやら自殺をしようとしたらしい。呪われて死ぬかもしれないと言う流れからなぜ?。
実は彼、投資に失敗して借金まみれになり妻には打ち明けることが出来ず、将来を悲観して自殺しようとしたのだ。呪われた男を演じて死ねば同情されるとでも思ったのだろうか。しかも、のほほんとした内海巡査を利用して事故死とは呆れて物が言えない。
飼い犬のサモエド犬は、そんな死のうとする彼の心情を察知して監視してくれていた心優しいワンちゃんだったのだ。
一命をとりとめた友人は妻と再出発を近い、安いアパートで暮らし始めたという。そして飼えなくなったサモエド犬はと言うと、櫻子の家で飼うことになった。
「託された骨」
正太郎の高校で開催された学園祭に珍しく櫻子が来てくれた。パンケーキを振る舞う正太郎のクラスを後にした櫻子は理科室に保管されている骨格標本を嬉しそうに眺めていた。一応、立入禁止だったので正太郎に怒られながらも、やはり標本だらけのこの部屋は彼女にとって天国なのだ。
しかし乱雑に置かれた標本は以前から校長に言われているらしく、正太郎の担任の磯崎の依頼で3人で準備室の整理をすることになった。実は在学中に理科室の責任者だった佐々木先生が急死したため、それ以来、誰も触らずに今日に至る。
整理をしていると、鍵がついた大きな箱があったので、一体何が入っているのかと思ったら、なんと人の骨だった。佐々木先生の遺族を尋ねたり、櫻子お得意の骨の分析で真相が明らかに。
見つかった骨は、どうやら佐々木先生の実家で使用人として働いていた女性で、佐々木とは若い頃に思い合っていたが一緒になることはなかった。なぜなら教師と使用人は血の繋がった兄妹だったから。
それでも自分の手元に人骨を保管しておくというのはやはり常識では考えにくい行動で、正太郎も悲しい出来事だけど共感は出来ないという気持ちだった。
櫻子がネコの標本を盗んだ?!
そしてこの物語はもう一つサイドストーリーがある。理科準備室にあったとされる猫の標本が無くなったのだが、人骨が発見され時、警察が学校にやってきて、そのどさくさに紛れて誰かが犯行に及んだ可能性が高いが、正太郎はまさかとは思うが、櫻子を疑っていた。
彼女は2匹猫を飼っていたが、近所の猫嫌いがやったのだろうか、毒をもられて愛猫2匹が死んでしまい、病院に連れて行っても間に合わないと考えた櫻子は学校へ行って佐々木先生に解剖してもらったとか。その2匹の猫の名前がアルナとレイディアス。「Ulnaアルナ」と「Radiusレイディアス」は手首から肘までの二股に分かれている骨の名前。櫻子の家に飾ってあった猫の標本「アルナ」をヒントに探偵らしい推理を見せてくれた正太郎。
櫻子らしい名前の付け方だなと、正太郎も苦笑いしたであろうエピソードでした。ちなみに学校から持ち去った猫の標本は返さなくていいらしい。事情を知った先生が、代わりとなる標本を持ってきてくれれば良いとのこと。
感想
ヘクターと名付けられた雪のように白い大きなサモエド犬が、櫻子の家で飼うことになり、これから度々登場するマスコット的なキャラクターになりそうです。
「託された骨」はもう少し人間関係が複雑に絡み合っていますが割愛させて頂きました。でも櫻子の師匠とも呼べる佐々木先生のエピソードは読み応えあり。彼もまた櫻子と同様、手元に最愛の女性の骨を保管するくらいですから、普通ではありませんが、お互いに本当に惹かれ合っていたんだなと、少しジ~ンとしてしまいました。
そこへ櫻子の愛猫の話も混ぜてくるわけですから、「託された骨」は超短編にもかかわらず、長編小説に負けない深みのある作品。今のところ一番お気に入りの章です。