小説「ビガイルド 欲望のめざめ」感想あらすじ(ネタバレ含みます)

日本で今月(2018年2月23日~)上映された映画『The Beguiled』には原作があり、2度目の映像化。新作に加えて旧作(1971年)も少し観たことがあるので、異なる2作品の元となる原作小説(1966年発表)を読んでみることにしました。

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物語の舞台、時代背景

登場人物

場所は、南北戦争まっただ中のアメリカ南部。南軍と北軍が激しい内戦を繰り広げている様子が描かれます。

小説内にはハッキリとした年数は書かれていませんが、「チカモーガ(チカマウガ)の戦い」(1863年9月)が去年という記述があるので、この物語の始まり・・・学園の少女が森で敵の負傷兵と出会ったのは推定1864年。南北戦争は1861~1965年なので終戦に近い頃です。

「物騒で、物資不足な戦時中」という時代背景だけではなく、内戦の原因となった「奴隷制」に関しての記述もあるので、今更ながら世界史の勉強になりますと調べながら読みました。

奴隷制に反対する北軍と、奴隷の労働力(畑仕事やメイド)を使いたい南部。そんな南部のお金持ちの娘さんが暮らす女学園が、この物語の舞台です。

あらすじと登場人物

物語は、13歳の少女アメリアが森の中で血だらけの男を見つけるエピソードから始まります。

あらすじ

南北戦争末期、大砲の音が響く南部の女学園で暮らす少女は、森で重症を負って動けない敵の若い男性兵士を見つける。少女(アメリア)は、その見ず知らずの男(ジョン・マクバーニー)を助けようと女学園に連れ帰り、学園の先生も敵兵だと知りながら慈悲の心で懸命に治療。すぐには追い出さず、傷が癒えるまで居候させることに。

手厚く介抱され傷が回復していく男は、大人にも子供にもジョークや甘い言葉を使って人気者となり学園が明るく賑やかになるが、八方美人が裏目に出る事件が起きて事態は急変していく・・・。

たぶん「主人公」と言えるのは、学園に住む女性全員。この物語は、彼女達が語る形で進行していきます。

↓もくじページ画像、語り手となる8人の名前がズラリ。話しの流れに合わせて語り手が変わっているのです。

もくじ

次々と入れ替わって語る8人は、年齢や立場、生い立ち、考え方がそれぞれに違うので、状況説明や登場人物の紹介に個性が出て面白いなと思いました。

学園で生活している女性達

映画とは登場人物の設定が異なります。映画と比べて、小説ならではの細かい設定と複雑な人間関係が楽しめました。

先生(大人)

  • マーサ先生(学園長)
  • ハリエット先生(マーサの妹)

どうやら、お互いに信頼していない仲の悪い姉妹です。年齢は推定30代以上。

生徒(10代少女)

  • アメリア(13歳)
  • マリー(10歳、最年少)
  • アリシア(15歳、美少女)
  • エドウィナ(17歳、最年長)
  • エミリー(16歳、優等生)

もっと大人数の生徒が暮らす学園だったようですが、今では戦争や親の都合で家に帰れない少女達5人が残っています。

お手伝いさん(大人)

  • 通称 マッティ(黒人メイドさん)

そして、学園の住人として唯一の男性となる(森で女生徒アメリアに助けられた)負傷敵兵ジョン・マクバーニーは20歳の青年。

生徒を守るため外界と遮断された学園世界に、足を踏み入れた異分子(ジョン・マクバーニー)が巻き起こす騒動は、彼自身を追い詰めることに・・・。

小説『ビガイルド 欲望のめざめ』感想(ネタバレ含みます)

映画2作品の結末を知っていても、「この後どうなるのかな~」と最後まで楽しめる小説でした。でも逆に、それなりに内容を知っていたから楽に読めたのかもしれません。2度、3度と読み直した状況に似ているので、理解力スピードはかなり向上しているはず。

なんせ、ドドーンと2段に分かれた文字がぎっしり詰め込まれた分厚い本なので、ゼロからのスタートだと読むのに手間取っていたかもしれません。

2段~

ブルーが綺麗

映画の内容を思い出しながら、映画では描かれていない物事をじっくりと楽しみました。

だます、魅了する

危ない森に入ったり、助けた男と親しくしたり、先生がダメということばかりをするお嬢さんたちは、好奇心に溢れていて魅力的です。また、地獄のような戦場から助け出された若い男、ジョン・マクバーニーは何か企んでそうだけど口が達者で愛嬌と温かみがあり、憎めない魅力を感じました。

タイトルの『 Beguiled(ビガイルド)』の意味を調べると「だます、魅了する」なので、私もジョン・マクバーニーに魅了されて騙されているのかしら?とも思いましたが、最後まで読んでみても彼は悪人キャラだとは思えませんでした。

確かに彼は未熟で、保身のために数多くの嘘を重ねて少女と先生を騙そうとしました。女の子に下心を持ちました。凄くこだわって絶対に失くしたくなかった足を失って暴力的な言動もしてしまいました。でも、彼はまだ大人の男とは言えない20歳という若い年齢。

恐れて嘘をついたり、母親を恋しがったり、学園の少女達と似ている普通の青年だったのかなぁと思うんです。物語を振り返ってみると。

孤独な人々

敵地でひとり、ジョン・マクバーニー青年は間違いなく孤独な状況と言えますが、集団で暮らしている学園の全員にも孤独さを感じました。

どうやら、学園の皆さんは以前から仲良しではないようですね。お互いを信頼できずにバラバラなのは生徒だけでなく、実の姉妹である先生2人も寄り添うことなく孤独に見えます。全員が孤独を感じていたからこそ、その心の隙間にジョン・マクバーニーがするりと入り込むことができたのではないかしら。

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出会ってすぐに気を許して友達認定するアメリア、ハンサムだと気に入るアリシア、父の姿を重ねるエドウィナ、愛する弟の姿を重ねるマーサ先生、親しい人の姿を重ねるハリエット先生・・・という人気っぷり。ゴマすりな捕虜と低評価するエミリー以外の生徒と先生の警戒心を緩めて好意を持たれます。

映画では男女の肉体関係に関する欲望と混乱がクローズアップされているように感じましたが、小説を読んだ私は、相手が欲しい言葉を的確に与えるジョン・マクバーニーが長年蓄積された孤独感を埋めるために役立ったのかなと思ったのです。

学園内の人間関係

少女や先生はどんな人柄なのか?登場人物が、自分以外の人柄を説明しているのをメモしてみました。カッコ内はその人柄を語っているキャラ名です。

誰かからの評価よりも、他人を評価する場合に個々の性格や人間関係が見えてくるような気がします。

アメリア 13歳

  • ブスでチビ、おっちょこちょい(マリー)
  • 恥ずかしがり屋のチビ(アリシア)

考え方が一風変わった子。人間に対しては、ほとんど興味を抱いてないようです。森から蝶やクモを連れ帰って飼育する感覚でジョン・マクバーニーを連れて来たのかも。

マリー 10歳

  • ひねくれている、頭が良い(アメリア)
  • とても頑固、非常識な行いをする(エミリー)
  • あどけない(ハリエット先生)
  • いたずらが過ぎる(お手伝いさん)

ずる賢くて大人びている面も。マーサ先生によく叱られています。

アリシア 15歳

  • それほど嫌な子じゃない(アメリア)
  • もっとも無邪気でない子(マーサ先生)
  • 大物になりそう(ハリエット先生)

美人なアリシアは唯一お金持ちの家柄ではない。魅惑的な母親は、その魅力で男を虜にして生きていく女性。

エドウィナ 17歳

  • いつも憎たらしい、変な人(アメリア)
  • 憎ったらしい(マリー)
  • おしゃべり(エミリー)
  • 利己的(マーサ先生)
  • 扱いにくい、意地悪(ハリエット先生)
  • 自分の面倒すら見れない(お手伝いさん)

感情の起伏が激しくて心が不安定な、お金持ちのお嬢様。本人いわく悩みが多くて厄介な人間。

エミリー 16歳

  • 清潔(アメリア)
  • 偉そう、潔癖症(マリー)
  • 他の子と比べると優しくしてくれる(アリシア)
  • 実務能力がある(ハリエット先生)
  • 威張ってばっかり(お手伝いさん)

マーサ先生に生徒のリーダー役として扱われる優等生タイプだけど、でしゃばりさんかな。

学園長マーサ先生

  • いい人(アメリア)
  • 好きではないけど意志の強さに感服(エミリー)
  • お金が好き、がめつい(エドウィナ)
  • 善良な女性、まとめ役(お手伝いさん)

全方位に厳しいので生徒と妹に不満を持たれています。責任感があって苦労人ではあるけどヒステリックに感じちゃいました。

ハリエット先生

  • 優しい(アメリア)
  • 平等、いつも空想ばかりしている(マリー)
  • これ以上素晴らしい人はいない(アリシア)
  • マーサ先生よりはある程度優しい(エミリー)
  • お酒好き酔っ払い、おせっかい(エドウィナ)
  • 世渡りが下手、騙されやすい(マーサ先生)

優しいが弱い。気が弱いくせに酒が入ると大胆で、何気に厄介なトラブルメーカー。

お手伝いさんのマッティ

  • 一番大事な人(アメリア)

学園の変わり映えのしない毎日に風穴を開けたジョン・マクバーニー青年は、彼女達に不穏ももたらしましたが、団結力ももたらしました。良くも悪くも・・・。

少女が怖い

楽しく心地良いトークで、バラバラだった学園の団結力を一瞬でも高めたジョン・マクバーニー。しかし、彼の男としての性欲が原因で大きな失態を招き、一部の信用と片足を失うことになりました。このエピソードがなければ平穏に彼は学園を去っていたと思うと残念ですが、この後はクライマックスに向けて独特な物語に発展していきます。

足の喪失によって気性が荒れたジョン・マクバーニーよりも怖かったのは、誰よりも最後まで彼を本気で信用していたアメリアちゃん。彼女の信用が崩壊した後は天国から地獄。

始まりと結末は小説も映画も同じだけれど、細かな設定や心理描写、ゆっくり流れるストーリー展開など読み応えのある原作本はおすすめです。映画よりも静かで穏やかな印象を持ちました。

色が綺麗

ちなみに、この2017年発行の分厚い小説本はカバーを外すとおしゃれなデザインを楽しめます。クラッシックなダークブラウンに映える水色がきれい。

『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』映画

2017年版の感想はこちら

1971年版の感想はこちら(白い肌の異常な夜)