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捨てる神あれば拾う神あり
先程も書いたように親の代から取引があった銀行でさえも
冷たくあしらわれる始末。
そんな危機的状況の中で、知的財産権に詳しい弁護士の協力、
しかも紹介してくれたのが前妻の沙耶からという意外な接点を作る辺りが面白い。
実は協力してくれた弁護士はナカシマ工業の弁護士事務所にいた人物で
どうやら意見対立後に独立したらしい。
ナカシマのやり方に疑問を持っていた人間だからこそ佃製作所にとっても最適な人物であることには間違いない。
更にどの銀行も貸し渋る中、ベンチャー企業に投資する会社が名を挙げてくれた。
正に「捨てる神あれば拾う神あり」である。
こうした企業間の取引は経営危機から脱した時が実に面白い。
あれだけ冷たい態度をとっていた白水銀行は歯が浮くような褒め言葉を並べて
取引を再開しようとしても後の祭りである。
顔面蒼白になる銀行支店長の顔が目に浮かぶが、佃は既に別の銀行に鞍替えを決めていたのは言うまでもない。
「下町ロケット」の結末で拾い上げた伏線
帝国工業に知識のみを譲り渡すこと無く、製品を納品するという方向で決まったものの
相変わらず若手社員からの反発は無くならない。
その中の1人が納品するテスト製品の中に不良品を意図的に混入させ
帝国重工との取引破綻危機に陥ったがなんとか事態は収集したものの
その若手社員は辞めるという結果になった。
当然、佃社長は激怒して二度と顔を見せるな!と喧嘩別れした形になるが
実は不良品と言ってもテストが通らず、その社員はここまで事態が深刻になるとは思わなかったらしい。
「後で社長に謝っておいてくれないか」
そんな言葉を残して去っていった彼に就職先の世話したのは社長である佃だった。
大学の研究所で働くことになったその社員からのメールは
「あんな背信を行ったのに・・・感謝の念に堪えません。本当にありがとうございました。」
そんな言葉から始まるメールには佃製作所の最先端技術は医療分野に活かせるという
大きなヒントが書かれていた。医療分野の転用・・・
全く考えもつかなかった発想に驚きながらも大きな可能性に期待で胸が膨らむ佃社長。
会社は、あの海の藻屑と消えたセイレーンのようになることはなく、
外れた軌道を上手く修正するどころか大きく上方へと上がっていき、
更に帝国重工とともに作り出した最新鋭のロケットが
青空の彼方へ飛び立ったのを社員、家族と見守る佃社長が感極まって言葉に詰まるシーンは感慨深い。
最後に・・
どうでしょうか、
上手く伝えきれていない部分もありますが池井戸氏の代表作とも言える今作は
まさに男のロマンともいうべき作品で、更に登場人物のそれぞれの立場を考察し
人物像がしっかりと作り上げられているのがわかります。
本を読んで感動して泣きそうになったり、鳥肌が立ったのは久しぶりでした、
やっぱり彼の作品はいいですね。後味がほんとにいい。