「下町ロケット」原作の感想ネタバレあり「池井戸潤の最高傑作がここにある」

さあ、来ましたよ!池井戸潤さんの作品がまたまたドラマ化です。
最近この方の作品の争奪戦が局どうして行われているのか、半沢直樹以降、
キー局でガンガン放送されていますね。

「ようこそ我が家へ」「花咲」「ルーズベルト」「民王」そして今作は”ようやくか”ともいうべき彼の代表作。
いつやるのか、そしてどの局で、時間帯は何時からなのか?
半沢は日曜夜9時で世のお父様方がお家で寛いでいらっしゃる時間帯にドンピシャだったことも勝因のひとつ。
もちろん中身あってのこのですけどね。

そして今回は池井戸潤さんの代表作なので絶対失敗はありえません(笑)余計なことをしなければ・・・ね、
ということで非常に気になるドラマですが
原作を読んでみましたので早速ご紹介していきたいと思います。

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「下町ロケット」のあらすじ

主人公の佃航平(つくだこうへい)は7年前まで宇宙科学開発機構の研究員として
ロケットに搭載される水素エンジンの開発に従事していた。

しかしギリシャ神話に登場するセイレーンという名を冠した実験衛星打ち上げロケットのテスト飛行がまさかの失敗、
国家予算で賄われていたロケット開発の重圧は相当なものだったはず・・。
そして父の死をきっかけに家業の佃製作所を継ぐことになった。

会社経営など全く経験のない航平だったが、
技術者としての知恵を活かし、彼の代から売上が3倍になり周囲を驚かせた。

そんな順調とも言える佃製作所が”倒産”という2文字も想定できるほど窮地に陥る事に。
取引先の一つで売上の1割近くを占めている京浜マシナリーから契約打ち切りを一方的に突きつけられたのだ。

さらに追い打ちを掛けるようにライバル会社であるナカシマ工業が特許侵害で訴えてきたのである。

売上激減、信用失落、裁判が長引けば体力が持たない佃製作所の行き着く所は倒産なのか・・・
そんな難局を社長である航平はどう乗り切るのか。

かつて打ち上げ失敗に終わったセイレーンのように軌道を外れていく会社の運命やいかに。

(大手企業)VS(中小企業)という大きな枠組の中で描かれる人間模様、
それぞれに置かれた立場、社内でも決して一枚岩で動くことはなく意見衝突するあたりなど、
一筋縄ではいかないストーリー展開に読み応えは十分です。

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「下町ロケット」の感想・ネタバレ注意

 

主人公はどんな人物なのか?

佃航平は、幼いころ宇宙飛行士になるのが夢で、
図書館にあったアポロ計画の本を読んで1人興奮したり
1969年に月面着陸したアポロ11号に感動するような純粋な少年。

そんな子供時代の夢は叶わなかったけど、
研究員として従事していたロケットエンジン開発は
知力と想像力をはるかに超越した製造物と大学の教授が語るように
佃にとって夢と希望に満ち溢れた最高の職業でもあったのです。

しかしセイレーン打ち上げ失敗で自信喪失し居場所を自分から無くして
研究所を去ってしまう。

退職は父親の死がきっかけと自分の中で言い聞かせてはいたけど
実は逃げたかった口実なのかもしれないのは認めざる得ない。

しかし彼は父親から引き継いだ家業を着実に成長させ売上を3倍にまで伸ばした実績を作ったのは紛れもない事実。
すっかり”経営者の顔”になっているわけですが、でも彼の中で夢を追い求めるという情熱が無くなったわけではありません。

というのも佃製作所はエンジンを開発・生産する中小企業で
利益の大半をロケットエンジンに使用されるバルブシステムの開発に投じていたのだ。

捨てきれない彼の夢でもありますが
後に社内で意見衝突するキーワードでもあるのです。

 

そんな佃の家庭環境は

大学のサークル仲間で研究者の1人だった沙耶(さや)と交際し結婚。
一人娘の利菜(りな)が生まれたけど佃が家業を継いだ後に二人は離婚。

結局、沙耶はどちらかと言うと家庭に収まり夫を支えるタイプでは無かったのである。
離婚してからの彼女は相変わらず忙しく海外にも飛び回るほどのキャリアウーマン。

彼女にとって仕事は生きがいなのである

さすがに身勝手な彼女に娘は任せられないと思うのは至極当然で
今は佃の母と娘の3人暮らしで、付け加えて言うなら、
思春期の娘と上手くコミュニケーションが取れていないのが現状。

見事に仕事と家庭両方に問題を抱えており、
娘から煙たがれるありがちな父親像も好感が持てる。
中小企業の経営者である反面、家に帰れば普通のパパなのである。

そんな人となりがしっかりと見えてくるのはさすが主人公だからかもしれませんが
感情移入しやすい丁寧な書き方は池井戸さんらしい。

 

「絶対無理でしょw」そんなピンチを作り出す荒業

このまま行けば間違いなく倒産・・・、
そんなシナリオを幾度と無く書き上げてきた池井戸氏。

ルーズベルトゲーム、ロスジェネの逆襲などの半沢シリーズ、そして「下町ロケット」だ。

今作はかなりエグい
主要取引先の一つ京浜マシナリーの担当者から

「来月末までで取引終了してもらえないだろうか」

と、取引企業としてはありえない突然の打ち切りを告げられた佃製作所。
この会社への納入金額は年間10億円、発注の増加もあるという話だったので
1台2千万円の工作機を3台も追加して万全の体制で待ち構えていたのに、だ。

完全にハシゴをハズされたわけである。

しかも追い打ちを掛けるようにライバル会社のナカシマ工業からの特許侵害訴訟。
これはもちろん偶然ではなく上記の話を聞きつけたナカシマが、
傷を負ったウサギをかるがごとく、最後の追い込みに入ったのである。

このナカシマ工業というのは佃製作所よりも規模が大きく、世間では大手企業として名が通っており
お抱え弁護士も特許関連の訴訟ではエキスパートと言っても良い。

いくら佃製作所に否がなくても負けてしまう可能性が大なのだ。

大手が訴えているのだから間違いないだろう・・・、
世間の目はそんなふうに映り、取引企業も「一時見合わせたい」という声がゾクゾクと上がり、
売上が激減、父親の代から取引があった白水銀行からも借り入れの待ったがかかった。

物語のスタートはまさに絶体絶命のピンチ、というわけだ

だからこそ佃製作所がその難局を乗り切り、素晴らしい結末を迎えた時は少し鳥肌が立ったほどでした。

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単純ではない構図でリアル感を出す

「大手企業」=「悪」としてしまうとあまりにも短絡的過ぎるしつまらない。
今回取引企業として中盤から参戦する大企業・帝国重工の社員たちは
中小企業である佃製作所を見下した態度はまさに悪だった。

しかしそんな帝国重工の中にも佃の技術力を認め、協力してくれる人物もおり
逆に社内では一致団結とは行かず、意見衝突して一枚岩になれないでいた。

それもそのはず、
帝国重工よりも先に特許を取得した佃製作所は、
「特許の権利を売る」もしくは「特許の使用を許可する」という
コストの掛からない選択を捨てて、リスクのある「うちで生産して納入する」やり方を
社長の佃が提案したのだ。

これまで売上に結びつかなかった大量に投入された研究開発費に
不満を抱いていた社員達が爆発したのである。

これは至真っ当な意見で、

「社長は夢を追い求めるのはいいが公私混同していないか?」

直球の意見に胸が痛い佃だったが、
彼の考えも決して短絡的ではないのだ。

特許の権利を売る場合、多額のお金は入るが今まで積み上げてきた実績は全て無くなり、
0からのスタートになる。また、特許の使用許可もコストが掛からず収益につながるが
ロケット開発に関わることのない外野で指を加えてみているだけでいいのか?
ということと、一度特許を譲り渡してしまうと他に使い道があるかも知れないという可能性を断ってしまうのだ。

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夢や希望を持ってもいいじゃないか

そんな単純な気持ちもあるかも知れないが
佃製作所は元々、小さい会社だけど技術を売るというスタンスでやってきた。
そこにプライドがあるし誇りがある。

今回、帝国重工が推し進めるプロジェクトはまさに新型ロケットの開発で
佃製作所のバルブシステムが必要不可欠であり、佃は技術力を提供したかったのだ。

夢にまで見たロケット開発、挫折から数年、もう一度チャンスが有るなら関わりたい・・・

公私混同なのかもしれない、
しかし佃のそうした揺るぎない気持ちはちょっとずつ社員に伝わったのである。

長くなったので分割しました、
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